この曲を聴け! 

The Symbol Remains / BLUE OYSTER CULT
失恋船長 ★★★ (2020-11-06 13:00:32)
9月の頭に先行公開された①と③を連日に聴き、リリース時にはアルバム全部を聴いたような感覚に襲われてしまった。
どこか不穏な空気の漂うBOC印満点の①と、それに反するAOR調とも言える歌モノロックバラード③、この二つが今作の方向性を示唆している。レーベルはフロンティアだしある意味、安全牌だなぁと思える。
冒険心もそこそこに、久しぶりにリリースされた今作は、専任キーボードプレイヤー不在の為、方向性としてはハードなカラーを強めた『Heaven Forbid』に近いがアラン・レーニアの後任を迎えなかったのも、アランに対する敬意なのかも知れないが、その辺りに物足りなさを覚えるファンもいるでしょうね。

その代わりにライブなどで長年バンドを支えたリッチー・カステラーノの貢献が大きく、プレイのみならず創作面でもバンドに新風を送り込み鮮度を上げてきた。
マルチプレイヤー集団として知られているBOCに新たなるマルチプレイヤーも加わり、アラン不在も、サンディ・パールマン不在も乗り越え、自らの過去と向き合い再構築することで生まれた今作、フロンティアの口添えも少なからずあると思うが、往年の空気を包み込み見事にイメージを壊さないアルバムを作り上げた。

エリック・ブルームもバックダーマーも衰えている、それらは隠し切れないものだ、その等身大の魅力をBOCカラーの名の下、ミステリー仕立てに作り上げた今作は、実に聴きごたえのあるものであり、無難ではあるが、それそれ、キタきたとマニア心を十分に刺激する、意欲に溢れている。
MVPはリッチーである。それは間違いないが、彼を前に出てこない。主役はオリジナルメンバーであるエリックとバックダーマーだ、そういう構成にすることで今作は威厳を保てたんだと思う。

とにかく先行されたPVを見過ぎた、アルバート・ブッチャードがパーカッションでゲスト参加する①など、今年一番聴いたんじゃないかと言うくらい、公開されてから毎日のように聴いた、良いような悪いような、どっちつかずの感想だが、そのおかげで今作に確かな感触を覚えたのも事実、そして、アルバムを全て知った気になったのも事実だ。何とも皮肉である。

ロン・サールの下で腕を磨いたリッチー・カステラーノは、今後もバンドを支えるだろう、それは創作面のみならずレコーディングなどでも辣腕を振るうだろう。老いては益々壮んなるべしな、二人を支えてもらいたいものだ。

先行された上記の曲以外も、いかにもドナルド・バックダーマーなポップセンス溢れる②、新鮮な⑤⑥、カントリー風のスピードプレイが面白い⑦、王道70年代ロックの⑧、エリックとリッチーの共作によるヘヴィな⑨もバンドしては異色なイメージを与えるしPVにもなった⑪など、魅力的な楽曲が多数収録。アルバム全体の流れも良く、通しても聴いてもダレない構成に唸らされる。

この手の音楽をヘヴィメタルと呼称したことで知られる元祖的な扱いが、このバンドのブランド力を上げているのだが、音だけ聴いてBOCを元祖ヘヴィメタルと呼ぶのは苦しい、どちからというと、ポップなロックバンドでした。いや極めてポップなロックバンドと言えるでしょう。
彼等が個性を強めたのはSF風や摩訶不思議な世界観を歌うと言う知的なエッセンスにある。そして、そのイメージを増幅させるクールな音楽性、埃っぽさのない洒落たサウンドメイクは、どこか濡れており、そして、ミステリアスな空気に満ちていた。そういう個性が、他のバンドとの差別化を図り今日まで活動できている。
今作はそのイメージを真っ向から受け止めた力作だ。残されたミュージシャン人生を考えれば、良くやってくれました。今後はコンスタントにお願いしたいですね。

→同意