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Life Among the Ruins / VIRGIN STEELE
ゴリャートキン ★★ (2008-08-29 15:40:00)

93年3月発表の5th。ポップ化した問題作とされる。
音楽性に介入してきたマネージメントを解雇した結果、法的な関係で長らくアルバムを発表出来なくなってしまった彼ら。
だが92年にテレビドラマのサントラに楽曲を制作、それに合わせて4曲分のPVを作り、翌年にアルバムを完成させた。
新たなスタートということもあって、ルーツに立ち戻った音楽性になったこと。ルーツとはデヴィッド・ディフェイの一番好きなバンド、LED ZEPPELINである。
結果、前作ゆずりのキャッチーなロックと、ZEP的なブルージーなHRをアメリカ流に料理した曲と、両者の中間のような曲が混在することとなった。
デヴィッドは「ブルーズ・エピック」「シンフォニック・ブルーズ」というような表現を使っている。
また、本作はよくWHITESNAKEと比較されるが、ZEP系リフmeetsキャッチーなメロディな「ブルーズ・エピック」系の曲は確かに「Still of the Night」の親戚のようにも思えるし、
メジャー感に満ちたポップ・ロック系のいくつかの曲もGeffen時代のWS的なところはある・・・が、雰囲気が近いだけで、似た/そっくりな/パクリな曲があるのではない。
ただ歌詞は露骨にZEP~デビカバな感じのエロいものもチラホラ(まぁブルーズというのはそういうものなのかも知れないが)。
個人的には、1曲目のブルーズメタル「Sex Rligion Machine」の陽気でリラックスした雰囲気が刺激を欠いてて、アルバムの印象の悪化に一役買っていそうで残念に思う。
同じく「ブルーズ・エピック」の曲ではカシミール系リフの荘厳な「I Dress in Black」は良いし「Crown of Thorns」の終盤の盛り上がりは格段に素晴らしい。
「Jet Black」「Love's Gone」も取り立てて秀でてはいないが、それなりの味わいがあると言えよう。
キャッチーサイドの曲だと、2曲目の「Love is Pain」がとんでもなく素晴らしい。これはLIONSHEARTの「Can't Believe」のような、1年に1曲あるかどうかクラスの名曲ではあるまいか。
他には「Never Believe in Good-bye」もそれに勝るとも劣らないロマンティシズム溢れる名曲だし、「Wild Fire Woman」は「Never~」の二番煎じ的だがやはり質が高い。
そしてレコード会社に要求されてリメイクした前作のバラード「Cry Forever」にポップ・ロックの「Too Hot to Handle」、
全編を裏声でやり切ったバラード「Last Rose of the Summer」はやり過ぎという声もあるが、とにかくどれも一定水準をクリアしてるのだ。
本作では小曲は3つ用意されてるが、その中で唯一歌入りの「Invitation」の圧倒的な美しさも特筆しておくべきだろう。
期待されていなかった音楽性ではあるし、曲順なども良くないかも知れない。音楽とマッチしてない上に地味なジャケットにも問題はあろう。
しかし名曲をいくつか内包した、優れたアルバムであるのは間違いない。
サウンドも素晴らしく、演奏にもキレがある。ヴォーカルのパフォーマンスも完璧である。
中古で安く見かけるので、キャッチーなメタル、美しいバラードが好きな人に是非聴いてもらいたい。
なお本作はデヴィッドは「パーソナルなアルバム」とした上で「非常に気に入ってる」と話している。
当初は作品を「時流に流されて売れ線に走った」などと認識していたが、ちょっと違うようだ。
いまでは名作とされる4作目に関してそれは当てはまる話で、本作が出た93年というのはグランジの潮流が渦巻いてた頃なのだ。
(しかし付け加えれば、デヴィッドはMOTHER LOVE BONEにALICE IN CHAINS、PEARL JAMとグランジが大好きで、地元のセッション・ライブではカヴァーもしているほど)
音楽性が変わったことについては、前作から4年以上も経ったこと、素直に自分のルーツを表現しようとした、ということらしい。
コマーシャルな部分は多いが、それは周りからのプレッシャーの結果でなく、本人にとってのチャレンジであり、やりきったという思いも強いのだろう。
もし単に時流に媚びただけなら、本作と間を置かずして制作された「マリッジ」がなぜああも正統派メタル・スタイルなのかも分らなくなってしまう。
ただ本人も本作がファンな間で不評なことは承知していて、イタリアと北欧ではまだ好かれているが、ギリシアとドイツでは憎まれていると語っている。
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