この曲を聴け! 

Ten Thousand Fists / DISTURBED
絶叫者ヨハネ ★★ (2006-02-24 21:03:00)
長い不毛時代を経て、アメリカから現れた正統HMの希望。
すでに死に絶えたかと思われた伝統メタルの血脈が、地下では脈々と受け継がれていたことを我々に知らしめてくれた作品です。

こういう音像は世間的にどこへカテゴライズされるのかよくわかりませんが、私にはどう聴いてもこれは伝統的HM、それの21世紀ヴァージョンのように聴こえます。たとえギターソロがなかろうが、リズムがヒップホップの影響を受けてようが、実質的にIn Flames やChildren of BodomよりはるかにHMの正道に近い所にいるバンドです(だからといって彼らが「邪道」というわけではありませんよ、もちろん)。

一応、彼らの音楽性を成分別に分解すると、だいたい
「モダンヘヴィネス直系のへヴィリフ」、
「怪しげで病的な部分を全て抜き去ったAlice in Chains,」
「「Empire」までの機械的な雰囲気だったQueensryche」、
「「Thrak」期のポップかつメタリックだったKing Crimson」、
「産業ハード・ポップ路線を取った80年代のYesやGenesiss」
などからできているといってよいでしょう。

ただ彼らの最大の特徴はその音の出方。最強のメタリック・ヴォイスと超個性的な唱法を自在に操るVoを含め、メンバー全員がほとんどリズム隊化しています。全ての音がリズミカルでパーカッシヴ、メロディを奏でる時ですら、叩きつけるようなニュアンスで奏でられています。とりわけVoの使い方は驚愕もの、デヴィッド・ドレイマンはこの分野に新たな地平を切り拓きました。

さて以上はあくまで楽曲のスタイルの上でのこと。肝心の曲の内容の方はというと、これがほぼ完全なヴォーカルメインの正統派HM。ここがポイントです。
彼らの場合、スタイル以前の、曲に対するセンスとアプローチが完全に古典的なHMのそれなのです。だから曲の基盤がモダンへヴィであっても、曲展開もメロディも、オールドスクールなHMをきわめて強く思わせるようなものになってゆきます。文字通り伝統メタルのスピリットを現代的フォーマットで甦らせたような音です。そして、彼らが何ものであるか告げる最大の印は、なにより全曲を貫いて流れるこのムード!!!!
このダークでドラマティックな世界観は、伝統HMの美学をこよなく愛し、これに深く傾倒している者でなければ絶対に描けません、というより、わざわざこれを今の時代にやろうと思い立ちません。

音楽における「正統派ヘヴィメタル的なもの」への熱愛度という点では、目下の所あのPrimal Fearと双璧。この両者はおのおの対照的な方法で伝統HMのゆるぎなき美学を実践していると、私としては述べておきたいところです。ちなみに、私は一曲目で自分と彼らが、「同じ乳を飲んで育った兄弟」である、と直感しました。直に話したことがないので(当たり前か)実際はどうだか知りませんが、音から見るかぎり伝統HMに対する理解の仕方に非常に自分と近いものを感じるので。

余談ですがこういう音楽は近年のQueensrycheにこそやって欲しかったんですけどね……。そうすればこうも日本のファンの支持を失うことはなかったのに。

とりあえず全国の正統派好き(ギターソロがなきゃ絶対ダメ、リフがシュレッドタイプじゃないと許せない、という「形式愛好派」は除く)のみなさん、もし未聴ならいますぐにでもCD屋さんに走って本作を購入しましょう、「ニューメタル」なる「音の傾向を無視した、ろくでもないジャンル分け」など気にする必要はありません。楽曲ごとの個性がイマイチとか、メロディラインの強さがもう一押しとか、Vo以外の楽器隊の存在感がどうもとか(とくにドラムス)、そういう細かいことは今後に期待することにして。

しかし、いかにもB!誌あたりが泣いて喜びそうな音なのに、このバンドを大々的にフューチャーしないのはまったく謎です。これこそ、彼らが待ち望んでいたものだと思うのですが。
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