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神は沈黙せず
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神は沈黙せず
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1. Usher-to-the-ETHER ★★★ (2014-07-29 21:52:42)

2003年にハードカバーにて発表された小説。
2006年には上下巻仕様で文庫化もされています。

この人の小説はこの作品で初めて読んだんですが、衝撃を受けましたね。こんなアイデアをこんなスリリングに見せてくれる作家がいたんだ!と。小説にしろゲームにしろ、本当に優れたエンターテイメントって、その面白さを他の人にも知ってもらいたくていてもたってもいられなくなるような衝動に駆り立てる力があるものですが、私にとっては正にそんな作品でした。

「世界が実は××である」というネタ自体は、ちょっと読書好きな人ならすぐにでも似たような設定の話を幾つか挙げられるくらい良くあるものですが、その掘り下げ方が「良くある」というレベルを明らかに逸脱していて、そこが非常に面白い。例えば、世界の軋みの一例として、「パイオニア減速問題」や「ウェッブの網目」など、虚実織り交ぜて具体的な現象が挙げられているんですが、これらの例とストーリー展開が相俟って異様なリアリティが生まれていて、読んでて引き込まれるんですよね。良い意味で、ハッタリをかますのが凄まじく上手いというか。

更に、そのネタが暴かれて、それで終わりという訳ではないのが素晴らしい。世界の仕組みが分かった事によって、超常現象の起こる理由から宗教の興る理由、人間、ひいては世界の存在する理由まで、あらゆる事柄に納得の行く理由付けがされてしまうのが、怖くも興味深く面白い。「何故、今、世界の仕組みが暴かれたのか」そのタイミングにさえ必然性がありますからね。また、「記号着地問題」などの脳科学的分野に踏み込んだり、一見理不尽な話に思える聖書の「ヨブ記」に一つの合理的な解釈を試みたりなど、様々な方向から読み手の好奇心を刺激してくれます。ある意味、非常にサービス精神旺盛な作品だと思う。

ただ、これ以上ないくらいに好奇心を満たしてくれる作品ではあるんですが、かなり灰汁の強さもあるんですよね。まず一つは、情報量が過多な事。超常現象の事例を長々と羅列した箇所とか、どうでもいいようなマヤ歴の単位とか、リアリティを持たせたいのは分かるけど、正直読み飛ばしの対象でしかないです。南京大虐殺のようなタッチーな問題に敢えて触れる必要性も、はっきり言ってあまり感じられなかったかも。この部分も、ストーリーの大筋と関係ない資料がズラズラ並べられていて若干うんざりしますし。

個人的には、主要な登場人物がいまいち好きになれなかったのもマイナスですね。ヒロインの優歌は占星術の衰退を喜んでいたりなど、非合理的な考え方の人間を見下している感じが鼻に付くし、その親友の葉月は本音の出し方がわざとらしくてリアリティに欠ける感じがします。信念を否定され、希望が断たれてもその直後に好奇心から災害を見に行っちゃう強メンタルな加古沢や、真実と幸福の間で苦悩する姿が印象的な大和田氏なんかは、良いキャラクターだと思うんですが…。どうも主要なキャラの性格付けはストーリーありきでなされている印象が拭えません。

ともあれ、人に話したくなるほど面白い小説だったのは間違いないです。既読の人向けに言えば、この小説は非常に感染力の強いミームと言えるでしょう(笑)。この人の本って、何かしら好奇心を満足させてくれる要素があって好きなんですが、これはその中でもその部分にパラ全振りしたような傑作だと思います。お勧めです。



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