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THE HOUSE OF ATREUS: ACT II (2001年)
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THE HOUSE OF ATREUS: ACT II
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解説 - THE HOUSE OF ATREUS: ACT II
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1. ゴリャートキン ★★ (2009-02-11 11:27:00)

2000年12月発表の10th。
前作に続く、アトレウス邸の悲劇の後編。2枚組、全23曲、90分の大作。
元々このアトレウス・シリーズはドイツの演劇監督に頼まれて書いたもので、楽曲自体は前作と同時期に書かれている。
本作の発売前から実際のオペラでは演奏されている。
だが、楽曲の方向性は前作とは若干異なる。
細かい刻みのアグレッシヴでダークなリフ主体だった前作に比べると、本作のリフはメロディを歌うものが多く、
よりメロパワ的・シンフォメタル的になったように思う。
ただ、2枚組になり、またつなぎの小曲の使い方も上手くなったこともあり、
聴き手は集中力を殺がれずに音楽を楽しむことが出来るようになったのではないだろうか。
裏ジャケに各曲のサイズ(時間)を表記してあるのも、小曲がどれか判断しやすくて有難い。
初心者の入門編としても悪くないアルバムではないだろうか。
好きな曲の数なら前作の方が多いのだが、とっつきやすさはこちらの方が格段に上だ。
以下、裏ジャケの表記と同じく、Disk 2の曲は11曲目~23曲目として記す。
ミニアルバムですでに発表されていた 1.Wings of Vengeance と 11.Flames of Thy Power は
どちらもDiskの1曲目を飾るにふさわしいアップテンポのメタル曲。憂いを湛えて走るので爽快感はない。
3.Fire of Ecstasy はデヴィッドが80年代にスラッシュ・プロジェクトEXORCISTで使った曲"Call for the Exorcist"のリメイク。
5.Voice as Weaponは実にメロパワ的な疾走曲で、ライブでも盛んに演奏されているが個人的には物足りない。
6.Moira 仇同士となり果てた母子が対面する、ピアノと歌による美しい小曲。
9.Wine of Violenceは彼らには珍しく強烈にネオクラ臭のするリフで幕を開ける疾走曲。
しかし曲の骨組自体はストレートなメタル、というよりもロックンロールであり、この食べ合わせの妙がこの曲を名曲にしている。
ここからDisk 1ラストまでの3曲は名曲連発だ。9.Token of My Hatredは憂いに満ち満ちたドラマティックな曲で、これはこのアルバムだからこそ。10.Summoning the Powersは、ダークでアグレッシブなリフは前作を引き継ぎ、プログレッシブな曲展開は次作、2006年の11th「Visions of Eden」に通じる。
12.Arms Of Mercuryは9曲目のメロディが出て来る名バラード。
13.By The Godsは力強い歌でロックっぽく始まり、次第にメロパワ的に疾走を始める。この曲は組曲になっていて、17曲目まで4曲ほど小曲が続く。
その中の15曲目には本作のメインテーマともなる、23曲目のサビメロが登場する。
18~20曲目も組曲扱いで、小曲に挟まれた 19.When The Legends Dieはやはり素晴らしいバラード。
本作のバラードの特徴は、というかバラードに限らないのだが、とにかく憂いのメロディに徹していることだ。
マリッジ期のバラードがどこか明るさや和やかさを備えていたのとは違う。
そして最終章の到来を告げる 21.Waters Of Acheronは悲しくもどこかロマンティック。
続く長めのインスト 22.Fantasy And Fugue In D Minorは冗長にも思える。Disk 1 にも3分台のインスト Nemesis があるが、この二つには少々不満だ。特に22曲目の方は、物語の終盤に来てダイナミズムを殺いでしまったように思う。
ラスト23.Resurrection Day は10分越えの大作で、今までの憂鬱なムードを蹴り飛ばし、明るさが差しこんでくる。
8th「Invictus」のラスト"Veni, Vidi, Veci"と同様のスタイルだ。最後には輪廻転生を表すマリッジ期のテーマメロディも出て来る。



2. ゴリャートキン ★★ (2009-02-11 11:29:00)


前作のテーマは「戦争は栄光ではない」ということだった。
トロイの街々は破壊しつくされ、王女は奴隷に身を落とした。
そして戦争の英雄アガメムノンは王妃の不義に遭い、帰還してまもなくバスタブの中で殺された。
本作ではさらに物語の真相に迫る。
母によって父を殺された子供たちは誰に復讐すればいいのか。
夫殺しと母殺し、どちらの罪が重いか。
父か母か。男か女か。
ギリシアの古き神々は女を支持し、新しき神々は男を支持する。
「血には血を」「剣の掟」の是非。
裁判では1票差で母殺しのオレステスが許される。
これは全て現代の話である。
ギリシア悲劇の中ではオレステスは生き延びるが、本作ではデヴィッドは彼に自殺をさせる。
これで、呪われたアトレウス一族の血による惨劇もいったんは終了し、平和が訪れる。
しかし最後には「輪廻転生」のテーマメロディが出て来る。
デヴィッドはマリッジ3部作以降、このメロディにこだわっている。
彼は「意識の永続」という考え方が好んでいる。
そうなのだ。仮に「輪廻転生」というものがなかったとしても、我々は歴史の中に生きている。
歴史の中に生み落とされる。そして過去と未来とを、意識させられながら時を過ごす。
「OK.次は上手くやれるだろうか?」それがデヴィッドの姿勢である。
だからデヴィッドは、インタビューで「過去」や「歴史」「神話」などの言葉が出て来ると過剰に反応する。
「俺がアルバムでやっているのは、現代の話なんだ!」
オレステスは死んだ。しかし、我々はオレステスの生まれ変わりだ。



3. ゴリャートキン ★★ (2009-02-11 11:35:00)

(物語概説)
1 Wings of Vengeance /// 故郷を離れ、亡命生活をしているオレステス。そんなある日、夢を見る。そこではギリシアの新しき神々「オリンポス」の12神アポロと土着の古き神エリュネスが言い争っている。アポロはオレステスに父親の復讐として、母クリュタイムネストラの殺害を命じる。
2 Hymn to the Gods of Night /// 一方クリュタイムネストラも妙な夢を見る。夢の中では赤ん坊に乳を与えるのだが、その赤ん坊は蛇で、牙を突きたてられ流血するのである。王妃はこれをアガメムノンの霊と彼を支持する神々の怒りが見させた夢と思い、慰霊のために墓所に娘エレクトラと婢女を遣わす。しかしそこでエレクトラ達が神々へ祈った内容は、王妃への復讐の成就だった。すると、決意を秘めて故郷に帰ってきたオレステスと出くわす。エレクトラは父の死に様を教える。霊を封じ込めるために、死体を損壊して埋葬したのである(これに合わせてのSEがグロい)。
3 Fire of Ecstasy /// 姉弟は復讐の誓いを新たにし、神の助力を請う。エクスタシーの本来の意味は、神がとりついた状態のことである。
4 Oracle of Apollo /// オレステスは夢に見たアポロの神託を語る。神によって母殺しの正統性を与えられているのを確認すると同時に、父の仇を討たないことが不義であると知る。
5 Voice as Weapon /// しかしそれでも一抹の躊躇があるオレステス。アポロは声を武器となして呼びかける。「あの女を殺せ!」最後にはオレステスも決心する。
6 Moira /// オレステスは旅人を装ってアトレウス邸を訪問。母に「オレステス死す」の一報を届ける。悲しき母子の再会である。母にとっては「恐ろしき復讐の種の死」であるも同時に「息子の死」。しかしどうも不信がぬぐえない。急いでアイギストスに遣いを出す。「警備の者を伴って帰宅せよ。そして旅人を尋問すべし」モイラとは人の運命/寿命を司る女神。王妃は己の死の近いのを感じていたか。
7 Nemiesis (インスト)/// ネメシスとは復讐の女神であり、神罰の執行を表す。アイギストスへの遣いは、オレステスの元乳母であった。彼女はエレクトラ達に説得されて仲間入りし、アイギストスを偽のメッセージで単身帰宅させる。
8 Wine of Violence /// 父アガメムノンの仇アイギストス。しかしアイギストスにとってアガメムノンは自分の父の仇だった。あとは血によって争うだけだ。アイギストスは斃れた。次は母クリュタイムネストラ。母は弁明をし、さらには母殺しの恐ろしさを語る。ギリシアの古き復讐の神、女の代理者エリュネスが黙っていないぞ、と。しかしオレステスはアポロの神託を思い出し、自身をこの世に生み落とした肉体に刃を突き立てる。
9 A Token of My Hatred /// ついに復讐がなされた!王国はアイギストスの圧政から解放され、人々は喜びを歌う。オレステスも神に感謝する。しかし現実のオレステスの傍らには血みどろの剣、血のつながった二人の男女の死体。数年前にアガメムノンとカサンドラが殺されたのと全く同じだ。
10 Summoning the Powers /// 父系社会にあって、息子に母が殺された。誰が仇を取ってくれるのか。クリュタイムネストラの霊に呼ばれ、古き復讐の女神エリュネスが立ちあがる。そもそもエリュネスは、父の仇としての母殺しは正義ではないとして反対の立場をとっていたのだ。
11 Flames Of Thy Power /// アポロの庇護を求め、逃亡を始めるオレステス。しかしその最中、次第に自分のやったことの正統性について疑問を抱く。太陽神を崇め、その救いを待ちわびながらも、もう「お天道様」の下で堂々と出来なくなったしまったのである。
12 Arms Of Mercury /// アテネに辿り着き、神像を前に祈祷するオレステス。だが「地獄の軍団」(エリュネスは複数いる神)に囲まれ、オレステスは死を覚悟する。
13 By The Gods /// すんでのところで女神アテナが現れ、裁判による決着を提案。アテネ市民の中から賢者10人が選ばれ陪審員に。エリュネスは、オレステスがオリンポスの神々によってたぶらかされたと糾弾する。
14 Areopagos (インスト)/// 軍神アレスが裁かれた土地がアレスの丘(=Areopagos)。裁判の始まり。
15 Judgement Of The Son /// 陪審員10人の票は五分と五分。当初の取り決め通り、アテナが最後の一票を投じる。オレステス無罪! 女神アテナはゼウス一人から生まれた母無し子であり、母には何の同情もなかったのだ。アポロはついに試練は終わった、と無邪気に喜ぶ。
16 Hammer The Winds /// 復讐も怒りも、大風が吹き飛ばした。アテナは「その風は闇をも吹き飛ばした」と言うが、エリュネスは「返り血までは拭えない」と否定する。オレステスは神への謝辞を述べる。
17 Guilt Or Innocence (インスト) /// アポロは全て終わったかのように言ったが果たしてそうだろうか。裁判で無罪なら本当に罪はないのか。やったことは消えるのか。オレステスの心は晴れない。
18 Fields Of Asphodel /// アスフォデルとは実在するユリ科の花。「あの世に咲く死の花」とされる。オレステスは、己の為した血塗られた所業を思い起こし、死を逃れられぬのを悟る。
19 When The Legends Die /// 父に母に思いを馳せる。そこでは二人は懐中に武器を隠し持って対峙している。トロイの街は戦火に燃え上がった。自分は復讐をやり遂げた。しかしそれが何だというのだ。神でさえ嘘をつく。「血には血を」。そんな伝統など終わればよい。オレステスは自分の体に刃を突き立てる。
20 Anemone /// アネモネは、ギリシア神話においては少年アドニスが殺された時の血から生まれた花である。オレステスの血から、社会は何かを学び、花を咲かせることが出来るだろうか。アテナは、オレステスを止めるようゼウスに頼む。しかしゼウスはオレステスの意思を尊重し、自殺を止めはしなかった。
21 Waters Of Acheron (インスト)/// 地獄に流れるアケロン川。オレステスの亡骸は、魂は、ここを下っているのか。
22 Fantasy And Fugue In D Minor (インスト)/// 副題は「オレステスの死」。
23 Resurrection Day /// 館の呪いはオレステスの死で贖われた。しかし納得しないのは、権威を否定されたかのような古き神エリュネス。アテナはエリュネスを宥め、新たにアテネに移り住んではどうかと提案する。ここに古き神とオリンポスの神の間の和解がなされ、エリュネスは慈悲の神に生まれ変わってアテネ市民を祝福する。そうした中、オレステスの転生が始まる…。


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