曲構成がかなり練られているので、何回聴いても色褪せないのがこのアルバムの最大の魅力だと思う。歌詞もかなりキッツイのが多く曲調も暗いのが多いが、ライブとかだとほとんどの日本人はヴォーカルが何言ってんのかわからないと思うので、Trace of Bloodとかはそれなりに盛り上がるかと(笑) ってゆーかなんでコイツらこんなに演奏上手いの…?
今作は二人の惨めな男女の葛藤がコンセプトで、『関係における危機、愛とセックスの間の微妙な一線、そして他人との相互作用における過去の役割』を描いているとのこと…TPEと共通する部分も多いのですが、ライナーで言っている通り、ダニエルの私的経験が色濃く反映された内容になっています。恋人への愛情、そして中絶、隣人の自殺未遂など眼を覆いたくなるような重い内容ですね… ストーリーはブダペストを舞台として展開しますが、ハンガリーという国の民族的な陰鬱さ(自殺率世界一だったりエリザベス・バソリーだったり)がアルバムの雰囲気作りに大いに貢献していると思います。「過去のしがらみを解決して救済を見出す」という暗夜行路的ヒューマニズムは日本人も引かれる要素が多いかと。 楽曲は前作の方法論から特に外れてはいませんが、だいぶ聴きやすくなりましたね。 A Trace Of BloodやSecond Loveはシングルで切ってもかなり好評を得るんじゃないでしょうか。 基本的に歌モノですがバッキングや細やかな音使いは他の追随を許さない匠の技で、ややキャッチーながらも繰り返しの鑑賞に耐えうるクオリティ。この辺はもう盤石ですね。 初めてPoSを聴くにはインパクトに欠けるかもしれませんが、バンドのキャリアの中でも重要な一枚でしょう。ライフワークのTPEや超越論的なBeを仕上げるに先駆けて、ダニエル個人の内面を整理する必要があったのではないかと邪推。 日本版の購入を勧めます。歌詞対訳はもちろん、ダニエルの全曲解説とコンセプトの解説が付いているので、理解の一助になるかと思います。 ボーナストラックはまた微妙な位置にいますが、元々コンセプトの中の一曲だというので全体の流れに支障はない、はず。 ところで、クレジットには『All artwork and 3D animations by Daniel Gildenlow』とありますが、ブックレットのアートワークまですべてダニエルが作っているんでしょうか?だとしたらどんだけ多才なんだこの人…