また、そうして精神が破壊され、抜け殻となってゆく人物を象徴するかのように美しくも儚いストリングス、後半になると現れる浮遊感のある儚いギターも印象的である。 序盤で精神を崩壊させ、最後には諦観の色を強めていくという、アルバム全体でストーリーになっているかのような展開もドラマティック。 ④の歌詞「Not even the dignity of suicide is given to me」や、 ディスクに印字された「生きる事は苦しむ事、生存とは苦痛の内に意味を見出す事」というNietzscheの言葉、 それらが諦観と鬱な結末を示しているようにも思える。
のバンド、Opethと似ていると見る向きもあるようだが、個人的にはPain Of Salvationの方が近いと感じた。 というのも、Opethの様などこか他者を寄せ付けないような雰囲気と比べるとというよりかは、苦悩や諦観等、人間の感情の歪みに寄り添った感じを受けたからである。 この点、POSの名盤3rdにも通ずるものがあり、それをよりコンパクトにし、シンプルな曲展開にした印象。
Simon Reynoldsという批評家曰く、ポストロックとは 「using rock instrumentation for non-rock purposes, using guitars as facilitators of timbre and textures rather than riffs and power chords」だそうだ。 本作は正にこの言葉がぴったり当てはまる。 ギターはボウイングにより演奏されていて 、リフや明確なメロディを演奏する事が殆どない。 それよりもストリングスやベース等の方が明確な旋律を担っており、ギターは専らノイジーでアトモスフィアの演出に使われている。 ドラムはビートを刻んでいると言えるパートは少ない。ブラシスティック等を絡めて抑制された演奏が雰囲気を高めている。 ヴォーカルはファルセットを主体とした安らかな声。何となく少年少女の楽しげな声を思い出すのは自分だけだろうか。
近年では、KralliceやCult Of Fireなど邪悪でノイジーなだけではないトレモロを巧みに用いたバンドが現れてきているが、 このバンドもリフのアイディアの面で全く負けていない。 ①の初っ端から聴けるグロテスクに音程が上下するトレモロ、Kralliceの名曲『Dust And Light』のイントロをより寒々しくした様な荘厳な②のイントロ等、 トレモロのアイディアが多彩。 しかも、トレモロのメロディの輪郭自体ははっきりしていながら、要らぬ叙情性を発生させることなく、 あくまで不安や堕落、神秘性等が蠢く、吐き気を催す様な異常世界を保ち続けている点が素晴らしい。