ヨラン・エドマンをフロントマンに据えたスウェーデン発のメロハー・プロジェクト、CROSSFADEが'23年に発表した4thアルバム。(全6曲収録なので「アルバム」で括るには若干ボリューム不足か?) 彼らの作品を聴くのは、国内盤も発売されたデビュー作『WHITE ON BLUE』(’04年)以来随分と久々なれど、叩きつけるのではなく、聴き手を穏やかに包み込むような音楽性は全く変わっていなかったので一安心。というか“THORN OF LIFE”のような比較的ロック・テイストの感じられる楽曲も収録されていた『WHITE~』に比べると、今回はより一層AOR方面に踏み込んだ仕上がりとの印象あり。 なので、「Mr.北欧ボイス」の存在から様式美HMテイストを求めるリスナーの期待には一切関知してくれない本作ですが、ラーズ・ハルバック(G)&リチャード・ステンストロム(Key)という名うての職人達によって奏でられる、透明感を湛えたメロディのフックが本編への集中力を途切れさせませんし、何より、ムーディな楽曲からブルージーなナンバーまで、まろやかに歌いこなすヨランの美声がアルバムの肝。改めて「バラード系の楽曲を歌わせたら天下一品だなこの人」との思いを再認識させられましたよ。中でもソウルフルな歌唱、リチャードが美しく奏でるピアノ、エモーショナルなラーズのGによって繊細に彩られた⑤は本作のハイライトに挙げたくなる逸品です。 派手さはないものの、聴くほどに味わいを増す1枚。秋の夜長のお供にいかがでしょうか。
故ディーン・ファザーノやテッド・ポーリーといったタレント達を輩出。現役時代よりむしろ解散後に再評価が進んだバンド、PROPHETが'91年に地元ニュージャージーのインディーズHALYCAN RECORDSに残した3rdアルバムにして最終作。制作費削減の影響で(?)プロデュースはメンバーのスコット・メタクサス(B)自ら手掛けています。 Keyを生かしたプログレ・ハード路線の1st『聖なる予言』(’85年)、アメリカン・ロック色を強めた2nd『CYCLE OF THE MOON』(’88年)ときて、後にNUCLEAR ASSAULTに加入することとなるデイヴ・ディピエトロ(G)を加えツインG編成となった本作では、曲作りの主導権が(前2作のセールス的不振を踏まえてか)スコットからケン・ダブマン(G)に移譲されたことと合わせて、よりギター・オリエンテッドなHR路線へと作風を刷新。曲によってはブルージーな香りが漂ってくる辺りは、いかにも90年代前半に生み出されたアルバムだなぁと。 とはいえ、ラッセル・アルカラ(Vo)の情感豊かな歌唱を生かした③、哀愁のアコギ・バラード⑥、重厚なボーカル・ハーモニーに彩られた⑦のような初期作の色合いを残した楽曲もちゃんと要所を締めてくれますし、何よりハードネスとドラマ性が見事な融合を遂げた⑧なんて本作だからこそ生み出しえた名曲じゃないでしょうか。 SDGs丸出しなアルバム・タイトルに「蔵出し音源集かよ」との印象を持つ方もいるやもしれませんが(やや収録曲の出来栄えにムラが見受けられる点は事実)、しかしながらスルーしてしまうのは勿体なさ過ぎる立派な品質が保たれていることは強調しておきたい1枚です。
’85年1月に中野サンプラザで行われた日本公演の模様を収録するライブ盤。当初はVHSでの発売でしたが、時を経てこうしてCD化して頂けたのは既にビデオデッキを所持していない身には…僥倖っ…!なんという僥倖っ…!(って今じゃDVD化もされてるんですけどね) イングヴェイ作品中でもトップクラスの愛聴盤たる『MARCHING OUT』リリースに伴うツアーゆえ、セットリストにブルーズ/ポップ・チューンの類は皆無。OPがいきなり“I’LL SEE THE LIGHT TONIGHT”で、その後も“DON’T LET IT END”や“ANGUISH AND FEAR”、“I AM A VIKING”そして名曲“DISCIPLES OF HELL”等々、近年じゃライブでの演奏は望むべくもない楽曲の大盤振る舞い。悪評夥しいVHS版の映像加工もCDなら無関係ですし、何より音質に難のあった原曲がライブならではの荒々しい攻撃性を纏って蘇ってるのだから、これでアガらず何でアガるのか⁈と握り拳で力説したくなるってもんですよ。 イェンス(Key)とアンダース(Ds)のヨハンソン兄弟にマルセル・ヤコブ(B)と、バックを支えるのがスウェーデン時代から気心の知れた連中だからか、各員のソロ・タイムも配されたパフォーマンスに「王様の独壇場」的な印象はなく、ジェフ・スコット・ソート(Vo)もALCATRAZZ時代の難曲をパワフルに歌い上げ、既に実力派シンガーぶりをしっかりとアピール。勿論若き日の巨匠の前のめりなGプレイのカッコ良さも言うまでもありません。 人によっては後付けの歓声の盛り具合がわざとらしく感じられるやもですが、こちとらもっとキャーキャー歓声上げまくっていますので(心の中で)全く気にならず。イングヴェイのライブ作品の中では最もリピート率の高い1枚であります。
AIR SUPPLYが’82年に発表した7thアルバム。本作からシングル・カットされた“EVEN THE NIGHTS ARE BETTER”(邦題“さよならロンリー・ラヴ”)が期待通り大ヒット、エルヴィス・プレスリー以来となる「7曲連続でシングル・チャートTOP5入り」という偉業をバンドにもたらしています。(アルバム自体もプラチナムを獲得) 但し、創作意欲を満たすべく自作曲の収録を望むバンド・サイドと、手堅いヒット狙って外部ライターの楽曲を持ち込もうとするレコード会社との関係は軋みを上げ始めており、これ以降大きなヒットに恵まれなくなったAIR SUPPLY人気は緩やかに下降線を描いていくこととなるという…。 そんなわけで、絶頂期最後の作品というやや寂しい位置付けを受ける本作ですが、内容は「素ん晴らしい!」の一言に尽きます。アートワークの世界観をそのまま音像化したような、グラハム・ラッセルとラッセル・ヒッチコックの爽快で伸びやかなVoと胸を打つ哀メロを満載にした楽曲は、1曲目からバラード系の楽曲が連続するという微妙な構成すらものともしないクオリティを提示。特に洋楽ファンならずとも、きっとどこかで耳にしたことがある筈の②は所謂「ペパーミント・サウンド」の真骨頂というべき名曲。またAORの枠内で語られがちなアルバムながら、甘美なストリングスとツインVoの掛け合いを生かした③あり、プログレ・ハード風のドラマティックなアレンジが施された⑤あり、快活なロック・チューン⑦ありと、収録曲のバラエティは実は結構多彩であることも強調しておきたいところであります。 今夏の寝苦しい熱帯夜のお供にお薦めせずにはいられない名盤ですよ。
様々なバンド/プロジェクトに参加しては衰え知らずの伸びやかな美声を提供し続ける「Mr.北欧ボイス」ことヨラン・エドマンを主役に据えたFRONTIERS RECORDSのプロジェクト、CRY OF DWANが’23年にまさかの2ndアルバムをリリース。1st『CRY OF DWAN』は大変素晴らしい内容でしたけど既に7年前の作品であり、「ああ、1枚きりの単発プロジェクトだったのね」と納得しかけていただけに今回の続編リリースには意表を突かれましたよ。 制作チームの顔触れは一新されており、ブレーン役にはダニエル・フローレスに代わってトミー・デナンダーが就任。それに伴い音楽性の方にも若干の路線変更が見受けられます。例えばKeyの役割が透明感や抒情性の増幅から、華やかさやキャッチネスの演出へと変化していることが物語る通り、北欧メロハー風味よりもAOR/ハードポップ方向へ大きく踏み込んだ仕上がり。とはいえ一般的なAORに比べりゃサウンドには遥かにエッジが効いていますし、インスト・パートにおける技ありなアレンジからはTOTOを信奉するトミー・デナンダーならではの拘りがチラ見え。そこに北欧メロハーだろうがAORだろうが、悠々歌いこなすヨラン・エドマンの卓越した歌唱力が加わるのですから、完成度の高さは推して知るべしといったところじゃないでしょうか? “LIGHT A LIGHT”級のキメ曲に欠けるため、入門盤にするならまずは前作をお勧めさせて頂きますが、ポップに躍動する②、メロウなバラード⑤、歯切れ良くロックする⑧等、確実に耳を捉える収録曲が並ぶ本作とてクオリティ面では引けを取りません。「次があるならもう少し早めリリースをお願いしまっせぇ」とリクエストしたくなる1枚ですよ。
HAREM SCAREMのハリー・ヘスとFRONTIERS RECORDSの愉快な仲間達によるメロディアスHRプロジェクト、FIRST SIGNALが'23年に発表した最新作。これで早くも5枚目に到達、しかも前作『CLOSER TO THE EDGE』から僅か8ヵ月のブランクでのリリースというハイペースな活動ぶりが、安定した人気の高さとレーベル側がこのプロジェクトに賭ける意気込みのほどを物語っているんじゃないでしょうか。 アレッサンドロ・デル・ヴェッキオを始めとするブレーンの顔触れに大きな変化はないものの、前作が(良くも悪くも)やや煮詰まりの気配を感じさせる仕上がりだったため、リリース間隔の短さと相俟って本作に関しては購入時に若干の懸念を覚えなくもなかったのですが、実際に聴いてみたら、いやこれが全くの杞憂でしたね。Gの存在を前面に押し出し、よりパワフルな歌唱を披露するハリー、アップテンポの曲調、ライブ映えしそうな抜けの良いコーラス・ワーク等々によって新風を吹き込まれた楽曲は、これまで以上にハードネスの増強が図られており、それでいてメロディのフックやハーモニーの美しさを損なわない曲作りの巧みさは、ヤン・アケソン(STONELAKE)、クリスティアン・フィール(SEVENTH CRYSTAL)、ピート・アルペンボルグ(ARCTIC RAIN)ら、優れたソングライター勢を次々招集できるFRONTIERS RECORDS発プロジェクトの強みだなぁと。特に憂いを帯びたメロディとアタッキーなリフ&リズムが力強く突き進む②と、壮麗に華開くようなサビメロが秀逸なアルバム表題曲⑦は本作ならではの魅力が詰まった名曲ですよ。 FIRST SIGNALがこの先まだまだ戦えることを見事に証明してくれた力作。
HELLOWEENを始めとするジャーマン・メタル勢、あるいはPRETTY MAIDS、TNTといった北欧メタル勢の作品を数多く手掛けて来たことで知られる名プロデューサー、トミー・ハンセン。その彼がかつてKey奏者として在籍していたデンマーク出身の5人組THE OLD MAN AND THE SEAが、’74年にひっそりと残した唯一のアルバム。 アーネスト・ヘミングウェイの代表作『老人と海』をそのままバンド名&アルバム・タイトルとして冠してしまう肝の太さにゃ「度胸ありますな」と。これで内容が伴っていなかったら赤っ恥もいいところですが、気炎を上げるトミー・ハンセンのハモンド・オルガンを前面に配し、負けじとパワフルに駆動するソリッドなGとヘヴィなリズム隊がハードな彩りを加える、DEEP PURPLE、LED ZEPPELIN、CREAMといった先達からの影響を北欧フィルターを通して濾過吸収したようなHRサウンドは、叙情的にして壮大かつプログレッシブ。 ダイナミックでスリルに満ちた曲想がまさしく大海への船出を思わすOPナンバー①、効果的に用いられたピアノやアコギがエピカルな曲展開を一層盛り上げる②、Gとオルガンが真っ向ぶつかり合って火花を散らすホットなHRナンバー③、序曲④を含めると10分越えの長尺が変幻自在かつドラマティックに綴られていく2部構成の組曲⑤⑥…と、全編これ捨て曲なしの仕上がりとなっています。 若き日のトミー・ハンセンのアーティストとしての瑞々しい煌めきがしかと刻印された名盤。これがリリース当時わずか500枚程しかプレスされず、長らく幻の逸品扱いされていったんですから、勿体ねえ。国内盤CD化に感謝ですよ。