故ディーン・ファザーノやテッド・ポーリーといったタレント達を輩出。現役時代よりむしろ解散後に再評価が進んだバンド、PROPHETが'91年に地元ニュージャージーのインディーズHALYCAN RECORDSに残した3rdアルバムにして最終作。制作費削減の影響で(?)プロデュースはメンバーのスコット・メタクサス(B)自ら手掛けています。 Keyを生かしたプログレ・ハード路線の1st『聖なる予言』(’85年)、アメリカン・ロック色を強めた2nd『CYCLE OF THE MOON』(’88年)ときて、後にNUCLEAR ASSAULTに加入することとなるデイヴ・ディピエトロ(G)を加えツインG編成となった本作では、曲作りの主導権が(前2作のセールス的不振を踏まえてか)スコットからケン・ダブマン(G)に移譲されたことと合わせて、よりギター・オリエンテッドなHR路線へと作風を刷新。曲によってはブルージーな香りが漂ってくる辺りは、いかにも90年代前半に生み出されたアルバムだなぁと。 とはいえ、ラッセル・アルカラ(Vo)の情感豊かな歌唱を生かした③、哀愁のアコギ・バラード⑥、重厚なボーカル・ハーモニーに彩られた⑦のような初期作の色合いを残した楽曲もちゃんと要所を締めてくれますし、何よりハードネスとドラマ性が見事な融合を遂げた⑧なんて本作だからこそ生み出しえた名曲じゃないでしょうか。 SDGs丸出しなアルバム・タイトルに「蔵出し音源集かよ」との印象を持つ方もいるやもしれませんが(やや収録曲の出来栄えにムラが見受けられる点は事実)、しかしながらスルーしてしまうのは勿体なさ過ぎる立派な品質が保たれていることは強調しておきたい1枚です。
AIR SUPPLYが’82年に発表した7thアルバム。本作からシングル・カットされた“EVEN THE NIGHTS ARE BETTER”(邦題“さよならロンリー・ラヴ”)が期待通り大ヒット、エルヴィス・プレスリー以来となる「7曲連続でシングル・チャートTOP5入り」という偉業をバンドにもたらしています。(アルバム自体もプラチナムを獲得) 但し、創作意欲を満たすべく自作曲の収録を望むバンド・サイドと、手堅いヒット狙って外部ライターの楽曲を持ち込もうとするレコード会社との関係は軋みを上げ始めており、これ以降大きなヒットに恵まれなくなったAIR SUPPLY人気は緩やかに下降線を描いていくこととなるという…。 そんなわけで、絶頂期最後の作品というやや寂しい位置付けを受ける本作ですが、内容は「素ん晴らしい!」の一言に尽きます。アートワークの世界観をそのまま音像化したような、グラハム・ラッセルとラッセル・ヒッチコックの爽快で伸びやかなVoと胸を打つ哀メロを満載にした楽曲は、1曲目からバラード系の楽曲が連続するという微妙な構成すらものともしないクオリティを提示。特に洋楽ファンならずとも、きっとどこかで耳にしたことがある筈の②は所謂「ペパーミント・サウンド」の真骨頂というべき名曲。またAORの枠内で語られがちなアルバムながら、甘美なストリングスとツインVoの掛け合いを生かした③あり、プログレ・ハード風のドラマティックなアレンジが施された⑤あり、快活なロック・チューン⑦ありと、収録曲のバラエティは実は結構多彩であることも強調しておきたいところであります。 今夏の寝苦しい熱帯夜のお供にお薦めせずにはいられない名盤ですよ。
様々なバンド/プロジェクトに参加しては衰え知らずの伸びやかな美声を提供し続ける「Mr.北欧ボイス」ことヨラン・エドマンを主役に据えたFRONTIERS RECORDSのプロジェクト、CRY OF DWANが’23年にまさかの2ndアルバムをリリース。1st『CRY OF DWAN』は大変素晴らしい内容でしたけど既に7年前の作品であり、「ああ、1枚きりの単発プロジェクトだったのね」と納得しかけていただけに今回の続編リリースには意表を突かれましたよ。 制作チームの顔触れは一新されており、ブレーン役にはダニエル・フローレスに代わってトミー・デナンダーが就任。それに伴い音楽性の方にも若干の路線変更が見受けられます。例えばKeyの役割が透明感や抒情性の増幅から、華やかさやキャッチネスの演出へと変化していることが物語る通り、北欧メロハー風味よりもAOR/ハードポップ方向へ大きく踏み込んだ仕上がり。とはいえ一般的なAORに比べりゃサウンドには遥かにエッジが効いていますし、インスト・パートにおける技ありなアレンジからはTOTOを信奉するトミー・デナンダーならではの拘りがチラ見え。そこに北欧メロハーだろうがAORだろうが、悠々歌いこなすヨラン・エドマンの卓越した歌唱力が加わるのですから、完成度の高さは推して知るべしといったところじゃないでしょうか? “LIGHT A LIGHT”級のキメ曲に欠けるため、入門盤にするならまずは前作をお勧めさせて頂きますが、ポップに躍動する②、メロウなバラード⑤、歯切れ良くロックする⑧等、確実に耳を捉える収録曲が並ぶ本作とてクオリティ面では引けを取りません。「次があるならもう少し早めリリースをお願いしまっせぇ」とリクエストしたくなる1枚ですよ。
HAREM SCAREMのハリー・ヘスとFRONTIERS RECORDSの愉快な仲間達によるメロディアスHRプロジェクト、FIRST SIGNALが'23年に発表した最新作。これで早くも5枚目に到達、しかも前作『CLOSER TO THE EDGE』から僅か8ヵ月のブランクでのリリースというハイペースな活動ぶりが、安定した人気の高さとレーベル側がこのプロジェクトに賭ける意気込みのほどを物語っているんじゃないでしょうか。 アレッサンドロ・デル・ヴェッキオを始めとするブレーンの顔触れに大きな変化はないものの、前作が(良くも悪くも)やや煮詰まりの気配を感じさせる仕上がりだったため、リリース間隔の短さと相俟って本作に関しては購入時に若干の懸念を覚えなくもなかったのですが、実際に聴いてみたら、いやこれが全くの杞憂でしたね。Gの存在を前面に押し出し、よりパワフルな歌唱を披露するハリー、アップテンポの曲調、ライブ映えしそうな抜けの良いコーラス・ワーク等々によって新風を吹き込まれた楽曲は、これまで以上にハードネスの増強が図られており、それでいてメロディのフックやハーモニーの美しさを損なわない曲作りの巧みさは、ヤン・アケソン(STONELAKE)、クリスティアン・フィール(SEVENTH CRYSTAL)、ピート・アルペンボルグ(ARCTIC RAIN)ら、優れたソングライター勢を次々招集できるFRONTIERS RECORDS発プロジェクトの強みだなぁと。特に憂いを帯びたメロディとアタッキーなリフ&リズムが力強く突き進む②と、壮麗に華開くようなサビメロが秀逸なアルバム表題曲⑦は本作ならではの魅力が詰まった名曲ですよ。 FIRST SIGNALがこの先まだまだ戦えることを見事に証明してくれた力作。
HELLOWEENを始めとするジャーマン・メタル勢、あるいはPRETTY MAIDS、TNTといった北欧メタル勢の作品を数多く手掛けて来たことで知られる名プロデューサー、トミー・ハンセン。その彼がかつてKey奏者として在籍していたデンマーク出身の5人組THE OLD MAN AND THE SEAが、’74年にひっそりと残した唯一のアルバム。 アーネスト・ヘミングウェイの代表作『老人と海』をそのままバンド名&アルバム・タイトルとして冠してしまう肝の太さにゃ「度胸ありますな」と。これで内容が伴っていなかったら赤っ恥もいいところですが、気炎を上げるトミー・ハンセンのハモンド・オルガンを前面に配し、負けじとパワフルに駆動するソリッドなGとヘヴィなリズム隊がハードな彩りを加える、DEEP PURPLE、LED ZEPPELIN、CREAMといった先達からの影響を北欧フィルターを通して濾過吸収したようなHRサウンドは、叙情的にして壮大かつプログレッシブ。 ダイナミックでスリルに満ちた曲想がまさしく大海への船出を思わすOPナンバー①、効果的に用いられたピアノやアコギがエピカルな曲展開を一層盛り上げる②、Gとオルガンが真っ向ぶつかり合って火花を散らすホットなHRナンバー③、序曲④を含めると10分越えの長尺が変幻自在かつドラマティックに綴られていく2部構成の組曲⑤⑥…と、全編これ捨て曲なしの仕上がりとなっています。 若き日のトミー・ハンセンのアーティストとしての瑞々しい煌めきがしかと刻印された名盤。これがリリース当時わずか500枚程しかプレスされず、長らく幻の逸品扱いされていったんですから、勿体ねえ。国内盤CD化に感謝ですよ。
EUROPEのキー・マルセロ(G)+FAIR WARNINGのトミー・ハート(Vo)の組み合わせだからKEE OF HEARTS。FRONTIERS RECORDSのバックアップを受けて立ち上げられたプロジェクトが’16年に発表した唯一作。 このタッグでは’20年にOUT OF THIS WORLD名義でもアルバムをリリース済みで、あちらではキー・マルセロが曲作りを自ら手掛けていたのに対し、本作はレーベル側があらかじめ用意したアレッサンドロ・デル・ヴェッキオを始めとする職人ソングライター勢の手掛けた楽曲に、二人が生命を吹き込むというスタイルが取られています。有体に言えばお仕着せのプロジェクトであるわけですが(それが嫌でOUT OF THIS WORLDを新たに立ち上げたのかな)、とはいえ流石にメロディ職人たちが関与しているだけあって、収録曲はアッパレな完成度の高さ。また泣きのGソロに耳を惹かれるOPナンバー①や、リフもリードもGが歌っている②…といった具合に、ちゃんとキー・マルセロのギタリストとしての長所にフォーカスした曲作りがなされていて、単に作りっぱなしにしていない点にも感心させられますよ。 勿論、トミー・ハートの熱気とエモーション溢れる歌唱の素晴らしさも言わずもがなですし、リーダー・トラックたる⑦を手始めに、トミーの力強い歌声が映える各曲のキャッチーなサビメロ作りの上手さにも唸らされるものあり。特に本編随一のハードネスと、フックの効いたメロディとが絶妙に溶け合って疾走するラスト・ナンバー⑪は、このプロジェクトの旨みを凝縮したような名曲に仕上がっています。 OUT OF THIS WORLDが気に入った方なら、本作もチェックして損はありませんよ。
タッピングの名手スティーヴ・リンチ(G)と、ハスキー声が特徴的なスティーヴ・プランケット(Vo)という二人のタレントを擁し、80年代に3枚のアルバムを発表。シングル“TURN UP THE RADIO”をヒット・チャート上位に送り込むも、善戦及ばず解散へと至ったLAの5人組AUTOGRAPHでしたが、マニア筋からの評価は一貫して高く、バンド解散後にUSG RECORDSのヨルグ・ダイジンガー(BONFIRE~SABU)から「未発表曲とかないの?あったらウチからリリースするで」と声を掛けられたことをきっかけに発売が実現した蔵出し音源集がこちら。(日本盤は'94年にテイチクからリリースされています) 内容の方は、これが嬉しくなるぐらいAUTOGRAPHらしさ満点のアメリカンHRサウンドが徹底。それというのも元々は幻に終わった4thアルバム用にレコーディングされたデモテープ収録の楽曲が使われているらしく、なのでこれはもう単なる未発表曲集というよりは、実質的な4thアルバムというべき1枚ではないかと。 前3作に比べるとテンポは若干落ち着き気味ながら、確かなヒット・ポテンシャルを感じさせるキャッチーなメロディ、LAメタル界隈屈指のテクニシャンと謳われたリンチのフラッシーなGプレイも健在。特に仄かな哀愁を塗したメロディをプランケットがオヤジ声…もといハスキー声で歌い上げ、華やかなハーモニーが援護射撃する③⑤辺りは、発表が80年代だったらバンド活動のその後だって多少なりとも変わっていたのでは?と思わずにはいられない出来栄えですよ。 AUTOGRAPHは00年代に入って再結成を遂げてくれましたが、ならば是非とも本作のクオリティを超える新作のリリースを期待したいことろであります。
スラッシュ・メタルの元祖とも評されるカナダ出身のスピード・メタル・トリオEXCITER。本作は一度の活動停止期間を挟んで6th『KILL AFTER KILL』(’92年)でカムバックを遂げた彼らが'93年に発表した、バンドにとって初めてのライブ・アルバム。活動最盛期の80年代にリリースがなかったのは残念ですが、今となってはダン・ビーラー(Ds、Vo)とジョン・リッチ(B)が揃った状態でのライブ盤を公式に残してくれたことに感謝ですよ。 ’91年2月に地元で行った復活ギグの模様が収録されており、セットリストは彼らが最も尖っていた1st~3rdアルバム収録曲のみというかなり偏った構成。でも文句を言うファンはいないんじゃないかな?個人的にも文句はありません。演奏は精緻とは言い難いですし、音質もイマサン。録音レベルが低いのでかなりボリュームを上げて聴いていると、連続再生で別のアーティストの楽曲が流れ出すとムチャクチャ爆音で毎度ビクッとさせられるという。しかしながらそうした荒っぽさすらも、欠点としてあげつらうのではなく「うむ、実にEXCITERらしい!」とポジティブに捉えられるのがこのバンドの強み。 ほぼ全編をスピード・ナンバーで固め、“STAND UP AND FIGHT”に始まり、“HEAVY METAL MANIAC”“I AM THE BEAST”“LONG LIVE THE LOUD”“VIOLENCE AND FORCE”といった名曲で畳み掛ける手加減無用のライブは、歌もドラムも喧しいことこの上ないダンを中心に、まるでブランクを感じさせないエネルギーの迸りで聴き手を圧倒する仕上がり。彼ら唯一のライブ盤ですし(違う?)、機会があればEXCITER入門盤として是非一聴をお薦めするはっちゃけた力作です。