「変な名前の凄い奴」として注目を集めていたイングヴェイ・マルムスティーンの真の実力を、誤魔化しの利かないライブという場においてHR/HMファンに知らしめ、日本における彼の人気を決定付けたALCATRAZZの初来日公演。その模様は『LIVE SENTENCE』『METALIC LIVE ’84』として既に商品化されていますが、前者は曲数が物足りなく、後者は編集やカメラワークが的外れという弱点を抱えていました。本作はそういった諸々の不満解消に着手した、まさにALCATRAZZ実況録音盤の決定版と呼ぶに相応しい内容で、思わず実家に「聴キマシタ、泣キマシタ」と電報を打とうかと思ったぐらいですよ。 まだブルーレイの方は見れていないためCDのみの感想となりますが、まずちゃんとライブ冒頭のSEから始まる構成なのが嬉しい。音質も臨場感を増し、ファンの熱狂ぶり及びイングヴェイのGプレイは一層生々しくクリアに捉えられています。まぁ一緒にグラハムのVoのメロメロさも生々しく蘇っているわけですが、ガナろうがハズそうが吹き出そうが、技術より「らしさ」を発揮できているか否かこそ重要なやっさんはこれでいい。マニアの悲願叶って遂に収録された名曲“JET TO JET”は、確か彼の歌唱に問題があってオミットされたと聞き及んでいたので一体どんだけ豪快なハズシが炸裂するのかと思ったら、別にいつもの愛すべきグラハムで寧ろ拍子抜けしたぐらいですよ。とまれ、強烈なイングヴェイの圧を真っ向受け止めて尚輝くなんざ、並大抵のシンガーに務まることじゃありません。 終盤もストレスの溜まるイントロ寸止めフェードアウトではなく、VHS版同様に“LOST IN HOLLYWOOD”以降の流れを完全収録。まさかこんな作品を聴ける日が来ようとは…と、発売してくれたレコード会社には足向けて寝られない1枚。
グラマラスなルックスと、意外に(と言ったら失礼ですが)秀でた作曲能力の高さで「遅れて来たLAメタル・バンド」として評判を呼んだPRETTY BOY FLOYDがリユニオンを果たし、'99年に発表した2ndアルバム。 ダーク&ヘヴィの嵐が吹き荒れた90年代を活動停止によりほぼスルー出来たことが奏功したのか、本作で聴けるのは、砂糖菓子のように甘ったるい――それが個性でもある――スティーヴ・サマーズの歌唱スタイルから、彼が歌う親しみ易いメロディや、思わず口ずさみたくなるキャッチーなコーラスまで、デビュー作の美点を余すところなく受け継いだ、明るく楽しいパーティ・ロック・サウンド。硬派を謳っていた連中でさえ次々にトレンドを取り入れようとしてズッコケていた当時にあって、「恰好だけ」とか「軽薄」とか侮られまくっていた彼らの方が、むしろHR/HMシーンの変化にも揺らぐことなく自分たちのサウンドを貫き通し、矜持を示してくれているのですから皮肉な話ですよ。 一聴してまず印象に残るのが、1st収録曲のリメイクだったり(⑤⑧)、KISSのカヴァーだったり(④)するのは如何なもんかと思わなくもないのですが、それでも収録曲は高揚感を伴って煌びやかに駆け抜けるロックンロール②から、フックの効いた③、スウィートなバラード⑨に至るまで、理屈抜きに楽しめる楽曲ばかり。特に聴いているだけで気分が浮き立つような疾走ナンバー⑫は、「これぞPBF!」と喝采を上げたくなる名曲ですよ。 何故PRETTY BOY FLOYDが根強くファンから愛されるのか。その理由の一端を伝えてくれるポップ・メタルの好盤。
「ヴィンテージ・スラッシュ」を標榜する東京出身のトリオが、デビュー作『CREATION OF THE WORLD』(’14年)の好評を糧に、’18年に発表した2ndアルバム。 前作から4年と、新人バンドとしてはかなりアルバムとアルバムのリリース間隔が空いてしまった印象ですが、濁声繰り出すVoに、ガリガリゴリゴリと突き進むリフ&リズムと、その合間を縫ってテクニカルなGソロがメロディックに舞う基本スタイルはまったく微動だにせず不変。全10曲収録でランニング・タイムが30分台という、タイトに締まった構成も前作同様です。 ただ、一口に「ヴィンテージ・スラッシュ」と言っても、倒れる寸前まで前傾姿勢を取り、遮二無二突っ走るSLAYERタイプではなく、リズムがどっしりとしたパワー・メタリックな重量感を湛えているのもこのバンドの特徴。地鳴りの如く突進するリズムと、野卑なシャウト、鋭利なリフ、そして質実剛健な楽曲にパッと華やかな彩りを加える、相変わらず鮮烈に冴え渡るGソロとが並走する①③⑥⑩という、ALICE IN HELLというバンドの魅力を分かり易く捉えた楽曲を要所に配置。疾走ナンバーはより破壊的に、ミッド・チューンはより重厚に、更には前作では聴かれなかったようなシャッフル・チューンにも挑戦する等、収録曲のバラエティが確実に広がりをみせる本編は、よりパワフルに、よりダイナミックに、バンドとしての総合力の成長ぶりが伺える内容に仕上がっています。 あとは演奏に埋もれがちなVoがもうちょい存在感を主張できるようになれば、更に一段階上のインパクトを聴き手に与えられるようになるのではないでしょうか?
'12年に発表したフル・アルバム。多分14枚目ぐらいかな? ROSE ROSEというと、オムニバス盤の名作『SKULL THRASH ZONE VOL.1』の印象がやはり強いのですが、あれから四半世紀以上の時を経てもサウンドの攻撃性が全く鈍化していない…どころか、一層刺々しくギアを上げて突っ走っているのですから恐れ入ります。 時代と共に音楽性を変化させ、00年代突入以降はクロスオーバー・スラッシュ路線へと帰着した彼らは、今回も同一路線を爆走。トータル・ランニング・タイムが30分台、収録曲は全23曲という構成はハードコア/パンクの作法に則りつつも、鼓膜に突き刺さるハイピッチVo、メタリックに暴れ回り、Gソロを奏でるだけに留まらず要所で劇的なツイン・リードさえ決めてみせる2本のG、スピードと音数だけでなく音圧も十分なリズム・セクション等、スラッシュ・メタル成分が嘗てない程に増量されているのも本作の特徴です。 特に、2分弱というタイトな曲展開の中に緩急、更にツインGの聴かせ所まで盛り込んだ②、切迫感に満ちたGリフに先導され突進する⑦、雄々しいコーラスと2本のGの劇的な絡みが最早正統派HM的ですらある㉓は血沸き肉躍らずにはいられない名曲。あと物々しく勇壮なインスト序曲①に鐘の音がフィーチュアされている時点で「あ、信用できる!」と。昔からサイレンと鐘の音を取り入れた楽曲にハズレはないと思っておりますので。 全編ひたすらハイテンションに走り抜ける、ショート/シャープ/ショックな姿勢が徹底された痛快作。ROSE ROSEのアルバムではこれが一番好きかもしれません。(つっても全部のアルバムの聴いたことがあるわけじゃないのですが)
ドイツのパワー/スラッシュ・メタル・バンドVIRONとABANDONEDのメンバーが、NWOBHMの名曲の数々をカヴァーするために結成したというトリビュート・バンドROXXCALIBUR。2ndアルバムは日本盤も発売されているのですが、個人的に聴き直す頻度が高いのはこの’09年発表のデビュー作。やはりこういったカヴァー曲集は、作り手が一番演りたかった楽曲が凝縮される1作目のテンションが飛び抜けているような? バンドの拘りが反映された収録曲は、“LADY OF MARS”(DARK STAR)の如きNWOBHMの聖歌を始め、プレ・スラッシュ・ソング“AXE CRAZY”(JAGUR)や、METALLICAもカヴァーした“LET IT LOOSE”(SAVAGE)といった過去に日本盤も出たバンドの代表曲から、TRIDENTの“DESTINY”、JJ’S POWERHOUSEの“RUNNING FOR THE LINE”といった知る人ぞ知る名曲、更には本作を手に取るまで存在すら知らんかったようなバンドの楽曲(いずれも味わい深い出来栄え)に至るまで、実にマニアックなチョイスがなされています。 完コピが基本の生真面目なスタイルのため、人によっては「カラオケ大会じゃん」と面白味に欠けるように感じられるかもしれませんが、それもこれもオリジナルへの愛情の深さゆえ。メンバーのパフォーマンスも安定しており、殊にVoの声質がスティーヴ・グリメットとよく似たタイプのせいか“SEE YOU IN HELL”(GRIM REAPER)のハマリっぷりは本編中でも1、2を争います。更にそこからもう一段遡ってCHATEAUXまでフォローしているのもニクイ。マニアだなぁと。 聴いていると笑顔にならずにはいられないトリビュート・アルバムの好盤ですよ。
インディーズ・バンドながら、年間100本以上のライブを行い、全国津々浦々を精力的にツアーをして回ったことから「LIVEの帝王」(CD帯にも誇らしげに謳われている)の異名を取った名古屋出身の5人組が、’89年に発表したメジャー・デビュー作(2ndアルバム) 結成当初はKey奏者も在籍し、プログレ寄りの音楽性を志向していたそうですが、メンバー・チェンジを繰り返すうちにサウンドがブラッシュアップされ、本作で聴くことが出来るのは、AEROSMITH等に通じるハード・ロックンロール。正直、自分好みの作風とは言い難かったため、購入以来長らくCD棚の肥やしの一つになっていたのですが、TILTが近年復活を果たし、ライブ活動を行っているとのニュースを雑誌等で見聞きするようになって、久々に引っ張り出して聴き直している今日この頃。 日本のバンドがこの手の音を演ろうとすると、どうしても寒くなりがちな印象があるのですが、パロディやチープな方向に逃げず真っ向勝負を挑んでいる本作がきっちりサマになって聴こえるのは、やはり熱く歌う濁声Vo、骨の太いG、柔軟且つ強靭にボトムを支えるリズムといった、実戦で鍛え上げられたメンバーのパフォーマンスが持ち得る説得力ゆえでしょうか。特に本家AEROSMITHを彷彿とさせる枯れた哀愁漂わすバラード“WHO’S GONNA WIN”は絶品。 個人的にはTILTの作品で一番好きなのは1st『THE BEAST IN YOUR BED』(’87年)なのですが、本作も結構良いなぁと。ただメタリックなプロダクションは上質ながら、Voが演奏に埋もれてしまっているのが勿体ない気も。