ダン・ハフ(Vo、G)と言えば、歌もギターもエモーショナル、曲作りに冴えを発揮し、現在はロック/カントリー分野で引く手数多のプロデューサーとして名を馳せる傑物。その彼が弟のデヴィッド・ハフ(B)、アラン・パスカ(Key)ら、名うてのセッション・ミュージシャン達と結成したGIANTが、1st『LAST OF THE RUNAWAY』のスマッシュ・ヒット後EPIC RECORDSへと移籍して、'92年に発表した2ndアルバムがこちら。 折からのグランジ・ブームに巻き込まれ、セールス的には不本意な結果に終わってしまったと聞く本作ですが、高度な演奏技術と卓越したアレンジ・センスをキャッチーで分かり易い楽曲作りのためにに惜しみなく注ぎ込んだ、ほんのりブルージーな香り漂うメロディック・ロック・サウンドは、傑作だった前作にだって引けを取らない充実っぷり。 90年代という時節柄、メロディの透明感やKeyの活躍の場といったAOR/産業ロック色はやや減退。一緒に歌いたくなるアリーナ・ロック然としたOPナンバー①、7分以上に及ぶ重厚且つドラマティックな②、あるいはホットなGプレイをフィーチュアした疾走ナンバー⑥等に代表される通り、今回はよりダイナミックにロックしているとの印象が強い作風です。ただそうした楽曲においても必ず耳を捉えるメロディやコーラス・ワークが仕込まれていて、大味感の蔓延を巧みに逃れているのがニクイ。PVも作られたキャッチネスと仄かな哀愁の同居が秀逸な名曲④、泣きまくる⑤と大らかな⑩という2種のバラードで本領が発揮される、ダンの歌とギターにも涙を誘われずにはいられませんて。 発表のタイミングがもう少し早ければ、ヒット・チャート上位にランクインしたって不思議ではなかった力作。
名古屋の和製サタニック・メタル・バンドCROWLEYの1st『WHISPER OF THE EVIL』の再発が昨年最後の驚きだったとするなら、今年最初の驚きは、これまた名古屋出身の5人組HIDDENがメジャー・レーベルから発表する筈が、看板シンガーの脱退(解雇?)を切っ掛けにバンド自体が崩壊してしまい、リリースされぬまま封印の憂き目に遭っていた幻のデビュー作『EMBALM』の「まさか!」の再発で間違いありません。 サウンドの方は、ドンシャリなプロダクション、ザクザク刻まれる奇抜なGリフ、畳み掛けるリズムといったスラッシーな土台の上に、変拍子を織り交ぜた起伏の激しい曲展開、立体的に編まれたハーモニー、インストの小曲を曲間に配した構成や大作主義等、プログレッシブ・ロックからの影響を塗した技巧派パワー・メタル。特にバンドの「核」となる、伸びやかなハイトーンからドスの効いたロウトーンまでパワフルに歌いこなす丹羽英章(現VIGILANTE)の卓越した歌唱力と、流麗なメロディを滾々と奏で曲展開をスリリングに牽引するツインGの演奏は聴きモノ。リフ/リズム・チェンジを繰り返しながら徐々にテンションを高めていき、その最高潮で炸裂する2本のGの劇的且つテクニカルなハモリが圧倒的カタルシスを誘発する①や⑦、あるいはオムニバス盤『MELODICL RENAISSANCE』にも提供していたHIDDENの代表曲である⑧等は、バンドの強みが十全に発揮された、10分近い長尺をものともしないドラマティックな逸品に仕上がっています。 バンドの再結成に繋がるものでないのが残念ですが、お蔵入りを惜しみ、楽曲の書下ろしや編集作業を行ってまで本作発売に漕ぎ着けてくれたメンバーにありったけの感謝を捧げる次第。
HELLOWEENではなくHALLOWEEN、ドイツではなくアメリカはミシガン州デトロイト出身の4人組が、'85年に地元のインディー・レーベルMOTOR CITY METAL RECORDSから発表した1stアルバム。 メンバーの早過ぎた白塗りメイクと、《DETROIT’S HEAVY METAL HORROR SHOW》の肩書が何やら怪しげな雰囲気漂わす本作は、チープなプロダクションから台所事情の苦しさが透けて見えますが、カイ・ハンセンに通じる(やや弱々しい)味わいのハイトーンVoをフィーチュアして、ササクレ立ったアグレッションを放ちながらスピーディに畳み掛けるスラッシュ・メタルの一歩手前…いわゆる「スピード・メタル」に分類されるサウンドは、バンド名同様に4人編成時代のカボチャ軍団に似通う趣きあり。但しメロディに欧州民謡調のクサ味やドラマ成分は控えめで、収録曲のランニング・タイムも殆どが3分台とタイト。ドラム連打を皮切りに嵐の如く吹き荒れるOPナンバー①を始め、より直線的に突っ走っている辺りは流石アメリカのバンドらしいなぁと。 とてもじゃないが万人向けとは言い難いアングラ感を発散しつつも、例えばこのバンドなりのバラードと言える抒情的な③、あるいはそこから繋がっていく、弾きまくるツイン・リードGをフィーチュアしてスリリング且つ忙しなく疾走する④(デビュー・シングル曲でもあった)のカッコ良さなんかには無視できない魅力が漲っていますよ。 極初期のHELLOWEENは勿論のこと、SAVAGE GRACE辺りが楽しめる方にお勧めする1枚。
ニューヨーク出身の4人組が'89年にU.S. METAL RECORDSから発表した1stアルバム(エンジニアとしてVIRGIN STEELEのデヴィッド・ディフェイの名前がクレジット)。ちなみに国内盤はメルダックから「MELDAC METAL MOVEMENT SIRIES」と銘打って、TITAN FORCE、PAGAN、JACK STARR’S BURNING STARR、MERZYという渋い面子の作品と一緒に'91年にリリースされています。 それにしてもジャケットが酷い。漫画家志望の女子中学生に頼み込んで描いて貰ったようなイラストは、本作を愛する身としてもちょっと擁護し難いレベルで、いっそメンバーに、お前らこのイラストのどこにイケる!という勝算を感じたのか、一体これでどんな人達にアピールしようと思ったのか問い詰めたくなるという。しかしジャケのチープさに反して、内容は全然悪くない。どころか非常に良いのだから物事は見た目じゃ分かりませんよ。 マッシヴなリフ&リズムに乗って、線は細いが魅力的な歌メロを拾うハイトーンVoや、テクニカルなGがパワフルに押し出して来る硬派なサウンドは、哀愁を帯びているがベタつかず、ドラマティックだがクサくない。雄々しいリズムに先導されてアルバムの開巻を勇壮に宣言する①、VICIOUS RUMORSを彷彿とさせる②、愁いを帯びたメロディが華麗に舞う⑥、拳を振り上げながら合唱したくなる重厚な⑨等、例えばCITIES辺りに通じる「これぞNY産」というコンクリート・メタルっぷりには思わず血が騒ぎます。またこれらの楽曲を華麗に彩るボーカル・ハーモニーの美しさも、バンドの強力な武器として機能しているという。 ジャケットに躊躇せず、是非とも手に取って頂きたいB級メタルの傑作。
‘84年初頭にリズム隊が音頭を取って結成。NEW RENAISSANCE RECORDSのオムニバス盤『SPEED METAL HELL』(’87年)に楽曲提供する等して名を上げた後、U.S. METAL RECORDSと契約を交わし、'88年にセルフ・プロデュースで1stフル・アルバム『BATTLE BRATT』を発表してデビューを果たす。ちなみに同作のCDはメルダックがリリースした日本盤しか存在していなかった為、中古盤がかなりの高額で取引されていたという。(現在は正式に再発が叶ったため安価での入手が可能) その後まもなくバンドは音信不通となるも、'05年に結成20周年を記念して復活を遂げ、過去音源を取りまとめたアンソロジー盤や、フル・アルバムも発表している模様。
遂に復活を果たし、名盤『NO MORE PAIN』のリイシューや新作アルバムの発表等、アクティブな活動を繰り広げているDOOM。その中心メンバーだった故諸田コウ(B)が嘗て在籍していたバンドとして名前だけは知っていても、音源を入手できる機会はないだろうなぁと思っていたZADKIELが、バンド解散後の'86年に残した4曲入りEP『HELL’S BOMBER』が、未発表曲とエンハンスト映像を追加収録した特別仕様(タイトルはシンプルに『ZADKIEL』と改題)で'06年にCD化された時は、そりゃもう驚くやら喜ぶやら。 音の方は「破滅型ロックンロール」とも「日本最初期のスラッシュ・メタル・バンド」とも評されるだけのことはあり、MOTORHEADやVENOMからの影響を伺わせつつ突貫するパワー・メタルをプレイ。刺々しさと埃っぽさを四方八方に巻き散らかすサウンドと、ダビングにダビングを重ねたカセットテープばりの音質の劣悪さとが相俟ってアングラ臭の渦巻きっぷりが半端ありませんが、収録曲のカッコ良さはそうした障害物をも易々と突き抜けて届いてきます。削岩機の如き迫力と緊迫感を伴ってドカドカ突進する①、ACCEPTの名曲“FAST AS A SHARK”を彷彿とさせるスピード・ナンバー③、重心低く押し出す④等、収録曲は諸田のBプレイにしろ曲展開にしろ、ストレートに直球を放り込んでくるスタイルゆえ、DOOMよか取っ付き易く感じる人も結構いるのではないかと。 今となっちゃこの音の悪さ込みで愛して止まない作品ですよ。
元祖・和製サタニックHMバンドの一つであり、’18年に再録アルバム『NOCTURN』を発表して復活の狼煙を上げた名古屋出身のCROWLEY。暮れにCD屋を覗いたら、彼らが'86年に発表した1st『WHISPER OF THE EVIL』がしれっと再発されて棚に並んでいるじゃありませんか。思わず「?!」と我が目を疑ってしまいましたよ。 内容は1st収録曲①~⑥に加え、’85年発表のEP『THE SCREAM OF DEATH』(’85年)から⑦~⑨、それに’17年に録られた“DESTITUTE SONG”のアンプラグド・バージョン⑩の全10曲を収録。いくら伝説的名盤と謳われても30年も昔の、しかもインディーズ作品。賞味期限切れを起こしている可能性もあるのでは?との疑念は、しかし悪魔降臨を奉じるが如き邪悪なイントロに続き、ハイトーンVoとGリフが鋭角的に切り込んでくるOPナンバー①、ヘヴィな曲調と泣きのメロディのコントラストが劇的な②…と続いた時点で、遥か彼方へと吹っ飛ばされてしまったという。本作の評価に下駄を履かせる必要なんぞ皆無。中でも8分以上に及ぶ⑥は、ショーンこと岩井高志の見事な歌唱に、メンバーの厄いパフォーマンス、和製サタニック・バンドならではの「情念」を増幅する日本語詞の威力が相俟って、海外バンドの借り物ではない禍々しくもドラマティックな魅力に圧倒される名曲に仕上がっています。(リマスタリングによる音質改善も本作の魅力向上に大きく貢献) 再発にご尽力頂いたメンバーとレーベルにはいくら感謝してもし足りない、いい年こいてお年玉を貰った気分に浸れる1枚。アクマしておめでとうございます。
才能と商魂を武器にKISSのジーン・シモンズが立ち上げたレコード会社といえば、目をつけられたアーティスト達が悉く大成できずに終わってしまう不幸の女神チックなレーベルとして一部で有名ですが(?)、幸か不幸かジーンのお眼鏡に適いSIMONS RECORDSからデビューを飾ったのが、グレッグ・ジェフリア(Key)がGIUFRRIA解散後に新たに結成したこのHOUSE OF LORDSであり、本作は彼らが'90年に発表した2ndアルバム。 ジェイムズ・クリスチャン(Vo)を中心に再編された現在のHOUSE OF LORDSが聴かせてくれる、ヨーロピアンな憂いを湛えたメロディックHRサウンドに比べると、この頃の彼らの持ち味は、大味…もとい抜けが良くド派手に繰り広げられる、限りなくGIUFFRIAと同一路線のアリーナ・メタル・サウンドであります。 メロディに泣きや哀愁といった要素は薄く、正直好みのタイプとは言い難い作風。しかし「駄作か?」と漫然と聞き流していたA面が終わってからが実は本作の真骨頂であるという。イントロで客演のクリス・インペリテリが高速Gプレイを閃かせる、エキゾチックな雰囲気も湛えたアルバム表題曲⑥以降には、ジェイムズの熱唱とダグ・アルドリッチ(G)のフラッシーなソロがダイナミックな盛り上がりを演出するバラード⑦、しみじみと沁みるメロハー⑧、ケン・メリー(Ds)大暴れなスピード・ナンバー⑩等、前半戦の印象の弱さを挽回するかの如く逸曲が並んでおり、聴後感は決して悪くありません。寧ろ後味爽快。 HOUSE OF LORDSの初期作は長らく国内盤が入手困難な状態が続いており、気軽に買えるようにならんかねぇと思わずにはいられない1枚であります。