オリコンチャートで遂に1位の座を獲得した'91年発表の6thアルバム(Voは前作同様、ヨラン・エドマン)。ここから次作『THE SEVENTH SIGN』へ至る辺りが、日本におけるイングヴェイ人気の絶頂期でしょうか。 作風を広げに掛かっていた前作『ECLIPSE』と比較すると、ややクラシカルな方向に揺り戻されている印象で、特に、生オケを導入した疾走ナンバー“NO MERCY”と“FOREVER IS A LONG TIME”、それに重厚且つ劇的な“FINAL CURTAIN”は「ビバ・ネオクラシカル!ビバ・イングヴェイ!」と諸手を挙げて叫び出したくなるようなカッコ良さ。 一方で、アルバム全体を俯瞰すると散漫さも目に付きます。1曲1曲は然程悪い出来じゃないのに、似通ったテンポの楽曲が連続する曲順の不味さ(インスト曲の配置も、もう少し考慮の余地があったのでは・・・)や、全15曲収録、70分に迫る超過ボリュームから来る冗長感が、折角の素材の良さに余計な影を落とし込んでいる印象あり。 そんなわけで、頭から通して聴くよりも“HOW MANY MILES TO BABYLON”等、優れた楽曲をピックアップして聴くか、もしくは自分なりの曲順を考えて楽しむことをお薦めしたくなる1枚ですかね。
『MAGNUM OPUS(超大作)』というタイトルの語感と、ジャケットにフィーチュアされたイングヴェイのドヤ顔とが相俟って絶妙にイラッとさせられる(笑)、'95年発表の8thアルバム。 前作『THE SEVENTH SIGN』の作風を継承し、バラエティ豊かに取り揃えられた楽曲1つ1つは良く出来ているのに、通して聴くとどうにもピリッと締まらない印象が強いのは、マイク・ヴェセーラのVoから今ひとつ覇気が感じられないせいか、はたまた生煮えなサウンド・プロダクションのせいか。「イングヴェイは同じシンガーと2枚続けてアルバム作るとテンションが落ちる」なんて囁かれ始めたのはこの頃からでしたっけ?(本作発表後、マイクはイングヴェイの悪妻アンバーとの浮気疑惑も掛けられクビになってしまった) 爪弾かれるアコギから疾走へと転じる華麗なる様式美に満ちた“VENGIANCE”、ヘヴィな“TOMORROW'S GONE”、数あるイングヴェイの名曲の中でもトップクラスのカッコ良さを備えた劇的な疾走ナンバー“FIRE IN THE SKY”etc・・・と、個々の楽曲は本当に良く出来ているのですが。特に“FIRE~”なんて、様式美HM好きならこれ1曲目当てで本作を購入しても損はないぞ!と、未聴の人の肩を叩いて回りたくなる名曲ですよ。
VENOMの『WELCOME TO HELL』がSHM-CD化された際、ファンの方が「何という資源の無駄遣い」と自虐的に書いているのを読んで笑ってしまったのですが、イングヴェイ的には、さしずめこのアルバムがそれに該当する・・・のではないかと。 数年前、リマスター&SHM-CD化に釣られて本作の紙ジャケ盤を買い直したのですが、スピーカーの前にぼろいカーテンが垂らされているような筋金入りの低音質に劇的な改善は見受けられず(多少なりとも良くなってはいますが)、「やっぱ元が悪過ぎるとリマスターにも限界があるよなぁ」と溜息をついた次第。 しかし多くの方々が指摘されている通り、ここに収められた楽曲はメチャ強力。どんどん洗練されていく次作以降に比べ、全編を分厚く覆うダーク且つマイナーな雰囲気と、パワー・メタル的なササクレた攻撃性を孕んだネオクラ・チューンの数々は、いずれも甲乙付け難い名曲揃い。 取り分け、本編中盤に並べられた3曲、後にVITAL REMAINSもカヴァーした禍々しくサタニック、それでいて劇的な“DISCIPLES OF HELL”、前作では精彩を欠いたジェフ・スコット・ソートの見(聴)違えるような熱唱振りと、タイトルに相応しい勇壮な曲調に思わず荒ぶる“I AM A VIKING”、“序曲1383”から繋がりGとKeyが火花を散らす“ANGUISH AND FEAR”は、初期・北欧様式美HM路線の最高峰と言うべき至高の逸品にして、このアルバムでしか聴くことの出来ないタイプの楽曲ではないでしょうか。 音質の酷さがあってなお輝きを失わない、個人的には最高傑作と名高い3rd『TORILOGY』よりも聴き直す機会の多い1枚です。
イングヴェイが、ソウルメイト(笑)のジョー・リン・ターナーと組んで作り上げ、'88年に発表した4thアルバム。 いくら彼がワンマンでも、御大リッチー・ブラックモアとアルバムを作ってきたジョーからすりゃ単なる青二才に過ぎなかったことは想像に難くなく、結果、本作はジョーが自分の「色」を明確に打ち出すことに成功した、イングヴェイのアルバムとしては異色の作風に仕上がっています。ポップな“HEAVEN TONIGHT”とか、初めて聴いた時は「勘弁してよ」ってなもんでしたが、その後はライブに足を運ぶ度に「ヘ~ヴン、トゥナイッ!」と大口開けて合唱しましたからね。 イングヴェイ的には、1枚も2枚も上手だったジョーにしてやられてしまったことや、交通事故の後遺症でブクブク太り始めた・・・じゃない満足いくGプレイが出来なかったことが傷となって本作をあまり気に入っていないようですが、内容の素晴しさに関しては、当サイトでの得票数の多さが雄弁に証明する通り。 OPナンバーにして必殺の名曲“RISING FORCE”に始まり、ジョーの熱唱が映える“HOLD ON”から、号泣バラード“DREAMING”、タイトルからして奮ってる攻撃的な疾走ナンバー“FASTER THAN THE SPEED OF LIGHT”で締められる本編後半まで、イングヴェイの「らしさ」とジョーの持ち込んだポップ・センスが(ありがちな表現ですが)絶妙な化学反応を起こした眩い名曲がゴロゴロ。 彼の最高傑作かと言うと作風的にちょっと異論があるのですが、捨て曲なしの名盤であることについては全く異論ないです。
イングヴェイ・マルムスティーンが1枚看板を背負って、HR/HMシーンに打って出た記念すべき作品なれど、インスト物はあまり嗜まない身ゆえ、彼のカタログの中では比較的手が伸びる率は低め。 正確にはジェフ・スコット・ソートが歌う楽曲も2曲ほど収められてはいるのですが、どちらもイングヴェイなら片手間に書けちゃいそうな小粒な楽曲の上、今でこそ実力派シンガーとして鳴らすソートの歌声もこの頃はかなり青臭い感じで、それが印象の残らなさに拍車を掛けています。尤も、もしこのレベルの楽曲がポッと出の北欧メタル・バンドのデビュー作に収録されていたら、「期待の大型新人登場!」と大騒ぎしたに違いありませんが。 歌入りナンバーの影が薄い理由は他にもあって、その最たるものが、美旋律とネオクラシカルなドラマに彩られたインスト曲のインパクトのデカさ。現在でもライブの重要なレパートリーである“BLACK STAR”や“FAR BEYOND THE SUN”、ARCATLAZZ時代に既に披露されていた“EVIL EYE”、そしてイングヴェイが単なる速弾ギタリストではなく、立派な「アーティスト」であることを証明する“ICARUS DREAM SUITE OPUS 4”・・・細部まで徹底的に練り込まれた、これら強力無比なインストの名曲を前にすれば、そりゃ並の歌入りナンバーじゃ存在感を掻き消されちまうわな、と。 イングヴェイがインスト曲主体のアルバムを作ったのは本作が最初で最後ですが(企画盤とオーケストラとの共演は除く)、ここまでやり切っていればそれも納得です。
’85年1月に中野サンプラザで行われた日本公演の模様を収録するライブ盤。当初はVHSでの発売でしたが、時を経てこうしてCD化して頂けたのは既にビデオデッキを所持していない身には…僥倖っ…!なんという僥倖っ…!(って今じゃDVD化もされてるんですけどね) イングヴェイ作品中でもトップクラスの愛聴盤たる『MARCHING OUT』リリースに伴うツアーゆえ、セットリストにブルーズ/ポップ・チューンの類は皆無。OPがいきなり“I’LL SEE THE LIGHT TONIGHT”で、その後も“DON’T LET IT END”や“ANGUISH AND FEAR”、“I AM A VIKING”そして名曲“DISCIPLES OF HELL”等々、近年じゃライブでの演奏は望むべくもない楽曲の大盤振る舞い。悪評夥しいVHS版の映像加工もCDなら無関係ですし、何より音質に難のあった原曲がライブならではの荒々しい攻撃性を纏って蘇ってるのだから、これでアガらず何でアガるのか⁈と握り拳で力説したくなるってもんですよ。 イェンス(Key)とアンダース(Ds)のヨハンソン兄弟にマルセル・ヤコブ(B)と、バックを支えるのがスウェーデン時代から気心の知れた連中だからか、各員のソロ・タイムも配されたパフォーマンスに「王様の独壇場」的な印象はなく、ジェフ・スコット・ソート(Vo)もALCATRAZZ時代の難曲をパワフルに歌い上げ、既に実力派シンガーぶりをしっかりとアピール。勿論若き日の巨匠の前のめりなGプレイのカッコ良さも言うまでもありません。 人によっては後付けの歓声の盛り具合がわざとらしく感じられるやもですが、こちとらもっとキャーキャー歓声上げまくっていますので(心の中で)全く気にならず。イングヴェイのライブ作品の中では最もリピート率の高い1枚であります。
音の悪さにかけては2nd『MARCHING OUT』と双璧を為す1枚。『MARCHING~』が時代を考慮すれば仕方ないと思える部分もあるのに比べ、本作は既に好きなようにレコーディングできる環境にありながらこの体たらくなのだから弁護のしようがありません。まぁポジティブに評価すれば「生々しい音で迫力がある」と言えなくもないですが、スラッシュ・メタルならともかく、イングヴェイのアルバムのプロダクションが生々しくてもなぁ、と。 そんなわけで初めてこの作品を聴いた時はかなり衝撃を受けました。音の悪さもそうですが、何より一聴して印象に残る楽曲が殆どなかった事実に対して。これまでのイングヴェイのアルバムには、必ず一発で虜にされるキメ曲が複数存在していたのですが、本作にはそうした楽曲が見当たりません。 まぁ、それもこれも全てはテレコ録音みたいな劣悪な音質のせいで楽曲の輪郭が不明瞭になってしまっていたからで(折角のマーク・ボールズの歌唱もバックの演奏に埋もれてしまっている)、数度聴き込めば、コテコテなネオクラ・ソング“PROPHET OF DOOM”あり、エスニックなヘヴィ・チューン“CRUCIFY”あり、キャッチーなサビメロが印象的な“MASQUERADE”や劇的なメロディ・センスが光るバラード“MIRACLE OF LIFE”あり・・・と、じわじわとボディブローのように収録曲の良さは浸透して来るのですが。 とは言え、イングヴェイ作品で「聴き込みを要する」ということ自体、自分にしてみりゃ奇跡体験アンビリーバボー(良くない意味で)。しかもまさか、本作以降はそれが常態化することになろうとは・・・。
遂に復活を果たし、名盤『NO MORE PAIN』のリイシューや新作アルバムの発表等、アクティブな活動を繰り広げているDOOM。その中心メンバーだった故諸田コウ(B)が嘗て在籍していたバンドとして名前だけは知っていても、音源を入手できる機会はないだろうなぁと思っていたZADKIELが、バンド解散後の'86年に残した4曲入りEP『HELL’S BOMBER』が、未発表曲とエンハンスト映像を追加収録した特別仕様(タイトルはシンプルに『ZADKIEL』と改題)で'06年にCD化された時は、そりゃもう驚くやら喜ぶやら。 音の方は「破滅型ロックンロール」とも「日本最初期のスラッシュ・メタル・バンド」とも評されるだけのことはあり、MOTORHEADやVENOMからの影響を伺わせつつ突貫するパワー・メタルをプレイ。刺々しさと埃っぽさを四方八方に巻き散らかすサウンドと、ダビングにダビングを重ねたカセットテープばりの音質の劣悪さとが相俟ってアングラ臭の渦巻きっぷりが半端ありませんが、収録曲のカッコ良さはそうした障害物をも易々と突き抜けて届いてきます。削岩機の如き迫力と緊迫感を伴ってドカドカ突進する①、ACCEPTの名曲“FAST AS A SHARK”を彷彿とさせるスピード・ナンバー③、重心低く押し出す④等、収録曲は諸田のBプレイにしろ曲展開にしろ、ストレートに直球を放り込んでくるスタイルゆえ、DOOMよか取っ付き易く感じる人も結構いるのではないかと。 今となっちゃこの音の悪さ込みで愛して止まない作品ですよ。
親日家トミー・クラウス(G)が率いていたドイツのメロディックHRバンド、ZARが'93年に残した3曲入りEP。 収録曲は、アコギが乾いた哀愁漂わすアメリカンな味わいのバラード“EAGLE’S FLIGHT”、憂いを帯びた重厚なミッド・チューン“NEVER SO ALONE”、合唱を誘うアリーナ・ロック然とした“I CAN’T BELIEVE”の3曲で、いずれもトミー・クラウスの作曲センスが発揮された佳曲ながらも、’93年発表の3rd『FROM WELCOME…TO GOODBYE』に収録されていた既発曲ばかり。ゆえに、それだけだったら買わずにスルーは確定だったですが、ハタと目に留まったのが、ジャケットに印刷されている《ZAR featuring JOHN LAWTON』の文字ですよ。そう、何と本作には1st『LIVE YOUR LIFE FOREVER』(’90年)で歌っていた初代シンガーにして、LUCIFER’S FRIENDやURIAH HEEPでの活動でも知られるジョン・ロートンが、ゲストVoとして自慢の喉を提供してくれているという。 参加曲が“EAGLE~”のみなのは残念ですが、二代目フロントマンのトミー・ブロックとリードVoを分け合う形で披露されるその歌声は相変わらず強力無比。張り良し艶良し伸び良しの絶品ぶりで、流石のトミー・ブロックのVoも、ここではやや霞んで聴こえてしまうのも致し方なしか。個人的には、この1曲を聴くためだけでもシングルを購入した甲斐は十分にあったと握り拳を固めた次第。 ちなみに(クラウスの日本趣味が発揮された)“KURODABUSHI”のカヴァーを収録する、『FROM WELCOME~』からカットされたもう1枚のEP『WELCOME』もお薦めです。
聖飢魔Ⅱの創始者ながら、レコード・デビュー前には既にバンドから脱退済みで、現在は、高校の数学教師という 世を忍ぶ仮の職業に就く、地獄の皇太子ことダミアン浜田殿下が、'96年にひょっこりとリリースしたソロ・アルバム。 デーモン小暮、エース清水、ゾッド星島、ライデン湯沢、ゼノン石川ら、歴代の聖飢魔Ⅱメンバーがゲスト参加している ことでも話題になった本作(人間椅子の鈴木研一も客演)。自主制作盤ゆえ、サウンド・プロダクションは貧弱だが、 初期聖飢魔Ⅱのメイン・ソングライターとして、“THE END OF CENTURY"“蝋人形の館"“悪魔組曲 作品666番ニ短調"等、 数多くの名曲を生み出してきた彼だけに、本作に収められた、サタニックな雰囲気漂う様式美HMナンバーの数々は、非常にハイクオリティ。 特に、劇的な疾走チューン③や、Keyが良い仕事をしている、怪しくも美しい⑧は、初期 聖飢魔Ⅱの名曲群と比較しても まったく引けを取らないカッコ良さを誇る。 ただ問題なのは、そうした楽曲を歌う殿下のVoで、上手い下手以前に、余りに素朴なその歌声は、良い意味で「コケ脅し感」満点の サタニックな楽曲を歌うには不向き過ぎる。(これは、④や⑥で喉を披露している、エース清水やゾッド星島にも言える事だが) 結果的に、⑧で貫禄の歌唱を響かせるデーモン小暮の存在が際立つ仕上がりとなっていて、やはり全編を彼に歌って欲しかったかなぁ、と。 ともあれ、優れたHMアルバムなのは間違いなく、初期聖飢魔Ⅱサウンドを愛する人なら、本作はマスト・バイ。 Say Banzai to His Majesty Damian Hamada!
アレクサンドル・シトコヴェツキーは、'85年に開催されたLIVE AIDにソビエト連邦代表として参加したことで知られるプログレッシブ・ロック・バンド、AUTOGRAPHのギタリスト。当時のVoは後にARIAに加入するアルトゥル・ベルクトで、ポップ色を強めた3rd『TEAR DOWN THE BORDER』('91年)は日本盤も発売された筈。また世界デビューに併せてバンド表記がロシアっぽくAVTOGRAF(アフトーグラフ)に改められたのは、アメリカの同名バンドとの混同を避けるためか。 ‘90年にはオール・インストのソロ・アルバム『ZELLO』を発表している。 ちなみに「アレクサンドル・シトコヴェツキー」で検索を掛けると、最初に引っ掛かるのがロシア人の天才バイオリニストの名前なのだが、どうやらご子息の模様。シトコヴェツキー家はロシアじゃ有名な音楽一家らしい。