この作品で初めて彼らのことを知りましたが…調べてみると何とメンバーがSECRTETS OF THE MOONとLUNAR AURORA絡み、しかも所属レーベルがOsmoseで、95年結成のベテランという事が判明。…ここまで聞くともう、実際にアルバムを買ってどういう音か確かめるよりなくなりますよね(笑)。何と言う私ホイホイな経歴なんだ(笑)。
SECRETS OF THE MOONはロックのふてぶてしいリズムとブラックの暴虐性を対比し、よりどす黒い禍々しさを演出することで、LUNAR AURORAはキーボードの音色に拘り、バンドサウンドの音響を操作することで、邪悪さを「魔性」とまで言えるレベルまで高めていましたが…このバンドは、ある程度オーソドックスなブラックの手法を取りながら、幽玄さと不気味さが同居するメロディやプログレッシブな展開で、同様の「魔性」を表現している感じですね。
しかし、GORGOROTHやENSLAVEDではなくORCUSTUS、LEVIATHANではなくLURKER OF CHALICEの日本盤を発売するDaymareってつくづく不思議なレーベルですよね…ハードコアを通過しているバンドがオーナーの好みらしいから、その関係もあるのかも。あと、相変わらずこのレーベルの解説は参考になるし、読んでて面白いです。
Ihsahnの弁によると、EMPEROR時代の「With Strength I Burn」を思い起こさせる曲だそうですが…本当に、表現の形態は全然違ってますね…。ただ、With~が嵐の中を幽霊船が行く様子、この曲では彼岸と此岸を繋ぐ海岸が浮かんだり、想起する情景自体はどこか共通する物があるように思います。
このアルバム、Ice Daleら他のメンバーも曲作りのアイデアに参加してるか、King氏がメンバー構成に合わせた曲作りをしているんじゃないでしょうか。基本はヘヴィネスやスピードに過剰に依存しない、リフ・リズム主導で邪悪さを表現するスタイルですが、近年のENSLAVEDに通じる幻惑的なギターフレーズや、Iに通じるグルーヴ感のあるリフも所々に上手く取り入れられてると思う。「This is Black Metal!!」な音でありながら、決してテンプレ通りの音にならない、安心と実績の作曲能力は流石King氏。
メロディの性質からは、シューゲイザーブラック好きにもお勧めできそうですが…やっぱり、鬱ブラック特有の、「死」を感じさせる雰囲気もかなり強いと思う。メロとは対照的に、ヴォーカルはSILENCERの裏返り部分のみを参考にしたような、疲弊しきった感じの悲鳴ですし(笑)。TRISTが自傷、CIRCLE OF OUROBOROUSが衰弱死ならこのバンドは安楽死という感じ。朦朧とした中、必死で生存を叫ぼうとする意識…しかし、最早肉体にはそれを表現する術は無かった…みたいなストーリーが浮かびます(笑)。
個人的には、ここまでぶっ壊れられると正直厳しいんですが…MUTIILATIONや初期DARKTHRONEが大丈夫でもこれはキツいと思う。EMPERORの最高傑作は「Wrath of the Tyrant」と迷い無く断ぜる方や、MUTIILATIONはまとも過ぎて温いと感じるマニアックな方以外にはお勧めは出来ません(笑)。 16分しかないのにここまで聴き手に消耗を強いる音源も珍しいです。