魔方陣のようなジャケットに惹かれて購入してしまったんですが、予想(期待)を裏切らない神秘主義的な真性ブラックという感じで、これは良いですね。多くのレビュアーがDEATHSPELL OMEGAやBLUT AUS NORDとの共通点を挙げる通り、アメリカ産ながらフレンチブラックの毒々しく美しい宗教的なトレモロを取り入れた路線で、前述のバンドの作品と比較するならDSOの「Si Monumentum~」アルバムに近い音でしょうか。
と言ってもメロディ面も決して疎かにはなっておらず、疾走パートではしっかりとこの手に特有の叙情メロディが聴けたり、リードギターがかなりメロウなフレーズを聴かせるパートがあったり、このジャンルの醍醐味である叙情性も、甘くなりすぎない程度に感じられるのが良いですね。ポスト方向に行き過ぎて脱ブラックしてるバンドよりも、「Mammal」までのALTAR OF PLAGUESや、FARSOTなどの邪悪さ強めのバンドが好みな方にお勧め。
PESTE NOIREほどあからさまではないものの、やはり所々で不条理な展開はあって、妙なSEを盛り込んだ「Sante nom de Freux!」でそれは顕著。「カア、カア(カラスの鳴き声)……ポン!…ぽこぽこぽこぽこ……」とか、ラストの雄叫びと悲鳴とか、何をどう突っ込めば…。しかも楽曲自体は恐ろしくかっこいいですからね…これは歌詞の内容が知りたいです(笑)。
SALTUSと言えば、EMPERORのトリビュートアルバム「In Honor of Icon E」に「Curse you all men!」で参加したことで有名なバンドですね。今年出たEMPERORの1st再発盤の限定仕様にそのトリビュートが付属していたこともあって、結構このバンドの音自体を聴いた事のある人は多いんじゃないでしょうか。その音源や、近年の作品ではデス的なヘヴィネスやソリッドさを手に入れているようですが、この時点ではまだデモという事もあって、かなり荒削りな感じの音。
とは言っても、「Reign of Light」「Solar Soul」で見せたようなどす黒いポジティビティ、ふてぶてしい程に確信に満ちた力強さなどはやはりSAMAEL。ヴォーカル、トレモロリフ、キーボードが引っ込み気味でドラム、グルーヴィなリフが前に出た音質は正直好みではないし、やはり個人的には「ROL」「Solar Soul」の作風の方が断然好きなんですが、それらの作品同様日本盤レベルのクオリティ、ポピュラリティはあると思うし、お勧めではあります。
The, vir, tu, al...war!! for, a, con, crete...peace!! この部分の一音節ごとに区切って叫ぶパートが、兵士にシュプレヒコールを促す指揮官のようで非常にかっこいい。思わず付いていきたくなりますもん(笑)。Vorph氏、ミュージシャンじゃなくて教祖とか目指してても大成したんじゃないでしょうか。
「Reign of Light」「Solar Soul」ではダンサブルなメタルというか、メタリックなダンス音楽になり、「Above」ではブラックメタルを回復したSAMAELでしたが…今回はその中間くらいの路線ですね。ダンス路線の、何千もの悪魔がマスゲームしてるような、邪悪ポジティブなエナジーを、ミディアムテンポで重厚なブラックに注ぎ込んだ感じで、雰囲気としては「Passage」「Eternal」に近いかも。
フューチャリスティックでスピリチュアルな感じのキーボードメロ、近未来の意思伝達手段を音にするとこんな雰囲気なのでは…という感じがしますね。ヴォーカルラインもキレ良くかっこいい。カンフーシャウトと共に歌われる「Nothing is impossible / Nothing is unreachable」というフレーズ、受験とか就職試験とか壁を前にしたときに聞いたら、パワーが沸いてきそうかも。
「The quest is never-ending / But you keep on growing / Paradise is at hand」「You're born in, you're born with / But still searching for it / In your head is the Promised Land」 …なんてポジティブで、確信に満ちてて、エネルギーに満ちた歌詞なんでしょうか。しかもこのフレーズがいっしょに歌いたくなるほどキャッチーに発せられるという。基本ブラックメタルなのに、聴くと体の奥からパワーが湧き上がってくるような曲。
しかし、そんな事は全くマイナスに感じさせないくらい、キーボードやリードギターが奏でるメロディが素晴らしいです。例えて言うなら、「Dusk and Her Embrace」「Cruelty and the Beast」の頃のCOF並の美しさに、更に第一級のメロデス並の分かりやすいキャッチーさを加えたような、ロマンティック極まりないメロディが全編に渡って繰り広げられてます。収録時間は30分弱と短いので、クサメロ好きならメロディ追ってるうちに、あっという間に終わってしまう感じでしょう。
個人的にはアンビエントやオールドスクールでないBURZUMの曲(「My Journey to the Stars」や「Ea, Lord of the Depths」など)に通じる雰囲気があると思う作品。裏ジャケで標榜してる「Misanthropic Black Metal」、その言葉のままの音を出してます。