アルバムの中でも、初聴のインパクトを最も重視しているであろう曲。イントロの「Sign of Presence」に続いて、様式美メタルギターの魅力がごく分かりやすく提示されていると同時に、歌メロの扇情度もかなり高い。こういう分かりやすい曲ってやっぱり好きですね。タイトルからはクワガタしか思い浮かびませんけど(笑)。
かつてブラックメタルでは有数のレーベル、End All Lifeから出したSLIDHRとのスプリットが好評を博したバンドが、約9年の時を経てついに1stフルをリリース…しかもレーベルはかのNorma Evangelium Diaboliということで、ブラック好きには大注目となっている一作ですが…これはかなりの力作です。
ごっつい排気量のマシンが駆動しているようなイメージの音で、3曲目なんかはエピックなシンセメロを取り入れているにも関わらず、浮かんでくるのは殺人マシーンの発進シーン(笑)。ただし、これでも音がゴツすぎて聴きづらさのあった前作(New World Rage Music)よりも音が整理され、大分聴きやすくなった感も。というか、音が整理されたことで、音像の全体が見渡しやすくなり、それによって曲のゴツさが更に際立った気もします。
フランス産ブラック/スラッジ。 バンド名を直訳すれば「倒れた男を見よ」のような感じだと思いますが(フランス語分からないので多分)、由来はジャック・オーディアールの映画作品から。ちなみにこの映画(Regarde les Hommes Tomber)、日本では「天使が隣で眠る夜」とのタイトルで出てますね。
この作品も聴いていると、ABORYM以外にも他のバンドが色々浮かんで来るんですが…その悉くが私のツボを突いてるバンドなんですよね。例えば、不協的なリフや不穏なアルペジオを駆使した、病的なムード作りは同郷のBLUT AUS NORDの近作を、時折リフに練り込まれる殺伐としたメロディはBlasphemer在籍時のMAYHEMを思わせる部分も。アルバム全体から言えばごく一部に過ぎないパートですが、LUNAR AURORAを思わせる神秘的トレモロが出てきたときは悶絶しましたね…。
先人の影響をそのまま取り込んだだけという訳ではなく、しっかり自分の持つ世界観に反映させられているのが素晴らしいです。ダークで破滅的なメタルが好きな方、特にBLUT AUS NORDの「MoRT」アルバムについて、雰囲気は好きだけどもう少しメタリックさや展開がある方が好みだと思った方なんかはどツボなのでは。
ブラックメタルの中でも、レアケースと言えるくらい刻みリフに特化したタイプのブラックですね。スラッシュの激しさやダークさを伸ばした結果、ブラック化したかのようなスタイルですが、オールドスクールな感触だけでなく、プロデューサーのAndy La Rocqueの手腕なのか、モダンかつブラックらしいダークさを失わない質感のある音に仕上がってるのが特徴。
ただ、キーボードやアルペジオ、ノーマルヴォイス(渋い美声!)を取り入れた4曲目など、壮大さやドラマ性を重視するあまり冗長になってる部分が少しだけあるのがネックかもしれません。まあ一部なのでそこまでマイナスではないですが。1曲目の45秒~辺りなどで散見される、スラッシュベースならではなフュリアスなリフとリズムの応酬、重々しさも軽快さも表現できる「刻みリフ」のポテンシャルを活かすような、Andy La Rocqueのプロダクションなどそれを帳消しにする美点も多いですしね。
そしてそのメロディの良さを武器にした、楽曲の充実振りも素晴らしい。トライバルなパーカッションとエキゾチックなアコギも取り入れ、異国情緒を演出するオケに、Garm氏を思わせる深みのある低音ヴォーカルが響き、幽玄な世界観を演出する「The Old Walking Song」はこの名盤の中でも異色かつ出色の出来だと思う。他の曲もブラックメタル要素が哀愁メロディと見事に融和していて、音楽を聴いている事を忘れてしまうくらい、彼の作り出す世界観に没頭してしまいます。
徹底して真性エレクトロ・ゴシックファンに受けそうな頽廃的な世界観を描きつつも、要所ではこういうV系的な取っ付きやすさを備えながら、世界観を保った曲を入れてくる辺りバランス感覚が良いですよね。メンバーのコーラスが若干浮いてる感はありますが…。でも、「♪You must be don't BETRAY me!!!」ってどういう意味なんでしょう(笑)。個人的には「汝確かに在りし、私を裏切ること莫れ」的な訳を当てたいんですが…この世界観で文法ミスとかめっちゃ萎えるんで…。