オーケストレーションを始めたメロディの使い方も当然の如く派手で、美メロ大仰メロの大判振る舞いという感じ。中国のバンドながら(だからこそ?)、ヨーロッパ風のロマンティシズムを感じます。特に「Glory of the Warrior」のクリーンヴォイスで歌われるパートには、思わず「騎士道精神」という単語が頭に浮かんでしまいました(笑)。ちょっと惜しかったのは、ヴォーカルワークに妙に印象に残る部分があったのに、ブックレットに歌詞の記載が無い事でしょうか。「Unchain」とか、ホント「妙に」印象深いんですよね…。
このブラックメタルの本質を衝きつつもハイクオリティな作風は、同レーベルに所属するASCENSIONやORDER OF ORIASを髣髴とさせるものがありますが…このバンドはブラックメタルの邪悪さだったり悲哀なムードだったりを際立たせるメロディが、時々あざとい程に鮮烈。例えば12分近い大作のラスト曲なんかは、イントロから泣きのギターメロで攻め、トレモロを交えた疾走パートなんかはDARK FUNERALやNAGLFARを愛聴する人ならガッツポーズもの。濃厚な邪悪さとメロディアスな作りを両立させているのが素晴らしい。
この作品も、ALCESTやBLUT AUS NORDの近作と並んでブラックメタルの可能性が無限大である事を示した一枚といえるかもしれません。ブラックが好きで、ノイズにも抵抗が無ければ是非聴いてみてください。SEっぽい部分はちょっと長めですが、ブラックホールに接近するまでの宇宙遊泳だと思えば楽しめるのではないかと。
メロディのセンスはかなり良く、特に中近東っぽいメロディが印象に残る「Transformation within Fictional Mutation」などは出色の出来。ジワリと破滅が忍び寄るようなムードは、煌びやか、とは言い難いですが、「Midian」「Bitter~」期のCRADLEのようなホラーっぽい雰囲気があると思います。
路線は、BURZUMの獄中作やSATYRICONのSatyrのWONGRAVENなどに近い、メロディアスなシンセ・アンビエントと、4つ打ちのリズムにサウンドトラック的な分かりやすいメロディを乗せた、インダストリアル曲の2つが中心。ラストの曲だけはノイズ系のカオスな音ですが、全体的に割と聴きやすい感じ。ヴォーカルも入っており、特に「Sign of the Dark」では、マイルドに、威厳を持って歌い上げる、Jonのクリーンヴォーカルというレアなものまで聴けてしまいます。
GNAW THEIR TONGUESのメンバーによる独りブラック、SORT VOKTER(Ildarn氏の別バンド)やA FOREST OF STARなどとレーベルメイトという時点で、常軌を逸した音楽である事は容易に想像が付きますが…その想像の通りの、巨大なヤスリの壁に擦り殺されるような、ノイズ一歩手前の轟音リフが横行する、非常にノイジーなブラックメタル。ヴォーカルも半狂乱の絶叫スタイルで、音の塊の中でもがいているようで、イカレ度はかなり高い。神経に障る通り越して、神経を綯い合せて引きずり出すようなカオティックなリフも凶悪。
この作品の音楽性は一言で言えば「ノイズ系ブラック」にカテゴライズされるものですが…心霊スポットでラップ現象や怨霊の囁きをレコーディングし、そのまま加工したかのような曲、DARKSPACEからノイズ要素を抽出・純化した轟音で責める曲、「邪悪な波動」という言葉をそのまま音楽に具現化したような曲など、曲のタイプは色々ありますが、バンドのアンサンブルが全く入ってないのが特徴ですね。ノイズ音楽の手法でブラックメタルの情景を描いたような作風で、同じくノイズの手法でエクストリームメタルを体現したJAZZKAMMERの「Metal Music Machine」に近いアルバムだと思います。
その後、ブラックメタルの本編に入って行く訳ですが…個人的にはこうしたポストブラック的なアプローチもありつつ、路線自体は絶叫ヴォーカルと疾走、トレモロリフで聴かせるという、スタイルそれ自体はブラックメタルをがっつり踏襲してくれるのが嬉しい。ギターノイズに常に包まれ、そこに儚いトレモロが乗るというスタイルは、WOLVES IN THE THRONEROOMやFARSOT辺りのバンドを思わせます。
裏ジャケに燦然と輝く「True Norwegian Black Metal」のロゴや、TAAKEのHoestが参加してることからも予想が付く通り、大分TAAKEに近い音ですね。割と辛口でRAWな音作りをしながら、プリミティブ系とは一線を画す、ギターソロも入る展開のある曲作りが似てると思う。痰を吐くかのような喚き散らすヴォーカルも、Hoestのスタイルに大分影響を受けていそうな感じがします。
ただこちらはTAAKEよりも曲や音の作りが粗く、丁度初期DARKTHRONEのムードを足したような感触があるんですよね。粗さだけでなく、あの頃のDARKTHRONEが持っていて、多くのフォロワーが出せていない、独特の刺々しい雰囲気まで受け継いでいるのが素晴らしいと思う。「True Norwegian Black Metal」のロゴを掲げるのに相応しい音を出してると思います。
また、ヴォーカルもかなり素晴らしいです。 物陰から獲物を狙う猛獣のような狡猾さと、獲物を捕らえる蛇のようなしなやかさを備えた、声帯の軋む音がそのまま聴こえてきそうな生々しい絶叫。スタイル的にSIGHの川嶋さんのデスヴォイスとも似てる気がしますが、最初期(Wrath of the Tyrant期)のEMPERORのIhsahnにも通じる自棄くそな殺気も感じられて最高。全編渡って血管切れそうなくらいのテンション。