「Renewing the Call for War」 ジギジギ系の金属質なノイジーさの中から、微かにメロウなメロディが聴こえてくるリフ捌きと、細かく脈動するようなベースライン、単調な打ち込みドラムが特徴の、カルト臭の半端ないプリミティブブラック。エフェクトの掛かりまくったノイジーなヴォーカルや、一頻り暴れ終わったら曲を閉じるミニマルな展開など、この手の中でも衝動性の高い音。時々疲れたように息を吐いてるようなヴォーカルは妙な味がありますね(笑)。どこか忙しないというか、細かい感じのするリズムの取り方は北欧勢とはちょっと違うポイントでしょうか。
「Playing with Toys that would have been Dangerous even for Plato’s Republic」 基本的には「Renewing~」と同路線の、衝動的なプリミティブブラックですが、若干曲が長くなったのと、メロディの煽情度が上がった事で少しだけエピックな感触に。ただ、ノイジーさが大幅アップし、MUTIILATIONの3rdや4thを更に耳に痛くしたような、物理的にキツい音質になってるので、カルト臭は更に増している印象。このパートでも忙しないリズムの取り方、たまに疲れたように息を吐くノイジーヴォーカルなど、味のある部分はしっかり引き継いでるのが良いですね。
「Himno a Jorge Rafael Videla」 このパートとボーナス2曲はシンセアンビエント。 サブタイトルの中に「オーケストラ」「ピアノ」「オーボエ」などの単語が散見される事からも分かる通り、クラシック風の美しいメロディを聴かせる作風。清浄さや荘厳さを感じる音像も美しく、さっきまで粗野なプリブラを演っていたとは思えない曲調。ちょっと音割れ気味な部分があるのは惜しいですが、やはりメロディは良いです。
7曲目「Bombing Certain Land」のリフ使い等、パートによってはメロウさを押し出してくる部分もありますが、基本的には渋めのプリミティブだと思う。時折用いるオールドスクールな刻みや、高音絶叫ではなく、恫喝するようながなりを聴かせるヴォーカルもあって、殺伐とした感触もかなり強めの仕上がり。民族的というよりは、現代社会への反抗的なイメージの強い音ですね。
ゴシック的な仄暗い邪悪さと美しさを備えたメロディと、緩急織り交ぜた展開でシアトリカル・コンセプチュアルな世界観を、まるで劇場にいるかのような臨場感をもって聴かせる作風は近年のCRADLE OF FILTHに近いものがありますが、このバンドは更に初期DIMMU BORGIRのムード作りの上手さまで兼ね備えているのが凄い。時々後期EMPERORのような、知性的な邪悪さの宿ったメロディも聴けるし、個人的にはシンフォブラックとしては非の打ち所がないです。
丁度「Midian」期のCRADLE OF FILTHが、「Her Ghost in the Fog」等で一部取り入れていた女性ソプラノを全編に取り入れ、より聴きやすくキャッチネスを重視した作風というと近いものがあるように思います。但し、音作りやアレンジにはCOFと比べると幾分…というか大分チープな部分もあり、まだマニア向けといった感じを脱し切れていない感は否めませんが。
曲的には正直名曲もあるけどインパクト不足が否めない曲もあったりしたんですが、彼のヴォーカルに関しては大満足。COFの2nd並にヴォーカルの喉が心配になってくるアルバムです。しかしARCTURUSのDVDといい、Season of Mistは缶ケースにこだわってるのかな…私はかさばるのが嫌で通常盤を買ってしまいましたが…。
それだけなら良かったんですが、デスとして微妙な出来なのがちょっと…。最初の印象はBLOOD RED THRONEのヴォーカルの切れ味、リフのフック、音質の良さなどの各要素を弱めた感じ…でした。「このCDを買え」で言うのも何ですが、正直言ってこれならBLOOD RED THRONE辺りのバンドの作品を買った方がいいかもしれません。
何気にヴォーカルの表現力が高いのも個人的にツボなポイントですね。 ブラック特有のがなりスタイルながら、恨みと憎しみに囚われた亡者が腐った肉を引き摺りながらもがいているような、粘着質で真に迫った感じがある。特に凄まじいと思ったのは「All Praise to Thee」で、恨み以外の感情を全て捨てて、遺恨のみを吐き出し続けているような、異様な迫力があって素晴らしい。歌った後暫くはあっちの世界から帰ってこれなそうな感じ。
ちなみに当時はライブではKEEP OF KALESSINやANTARES PREDATORに籍をおいた経験もあるGhash氏が加わり、このアルバムでも「Truth is Truth, Beyond the God」に参加してますが、それらのバンドのようなメタルとしての真っ当さは皆無で、徹底して地下臭い雰囲気を醸し出してます。アングラなブラックをある程度聴いている方にはお勧めです。